よしもとばなな「王国」

知り合いに「一番好きな本は?」と聞いて教えてもらったのがこれ。
よしもとばななさんは「ハゴロモ」以来の2度目。
「ハゴロモ」もすごくよかったし、本作「王国」も素晴らしくよかった。
僕はよしもとばななさん好きなのかもしれない。
積読増やしたくないので、当分は買わないつもりですが。つもり。ですが。

・その1 アンドロメダ・ハイツ
・その2 痛み、失われたものの影、そして魔法
・その3 ひみつの花園
・その4 アナザー・ワールド
の4冊の分冊。
「アナザー・ワールド」はその名の通りスピンオフ的な作品。

あらすじ

「あんたは山を降りなさい」。薬草のお茶で身体の悪い人を癒してきた祖母の言葉が、十八歳になった雫石の人生を動かす。自給自足の山の生活を離れ、慣れぬ都会で待っていたのは、目の不自由な占い師の男・楓との運命的な出会い。そしてサボテンが縁を結んだ野林真一郎との、不倫の恋だった。大きな愛情の輪に包まれた、特別な力を受け継ぐ女の子の物語。ライフワーク長編の幕が開く。
引用:「BOOK」データベースより

ネタバレありの感想

4分冊となっていますが、1冊1冊はとても薄く、分量の問題というよりは章立てが違うような感じです。

その1 アンドロメダ・ハイツ / その2 痛み、失われたものの影、そして魔法 / その3 ひみつの花園

山で暮らしていた雫石は開発によって山から追いやられ街に住むようになり、そこで出会った人々と交流をし何かを得て、何かを失っていく、というとてもありがちと言えばありがちなあらすじになるんですけど、登場人物等の個性や雫石の独特な視点、そういったものですごく魅力的な小説になっている。

なかなか感想を述べるのが難しい小説だ。
小説のテーマの一つはきっと「目に見えない大切なもの」といったようなことなんだろうけど、言葉にすることも難しい。
なんだか眩しく見えたり、弱々しく見えたり、鮮やかにも淡くも見える。
その相反するものを内包することこそが文学なんだと思うんだけど、読んでいる感覚としてはとても文芸的。
よしもとばななさんがどのような人なのかはわからないんだけど、雫石みたいなタイプではないんじゃないか、と思える。
そんな作者のエゴのようなものはあまり感じられず、あくまで雫石から見た世界を覗き見ることができる。
そんな小説なんじゃないかと。

その4 アナザー・ワールド

その1〜3までとガラっと変わる。
主人公が雫石からニノに変わり、時代も進んだ、ということもあるかと思いますが、それよりも大きな違いはやはり視点が雫石からニノに変わったってところなんだと思う。

主人公が変わっているんだから視点が変わるのは当たり前なんですが、確実にその1〜3の時からの地続きの世界なんだけど、全然違って見える。
それがすごい。

読み始めは雫石や楓なんかの出番が少なく、彼女らのその後が気になったファンとしてはヤキモキもしてしまうが、読み進めているとそんなことは気にならなくなる。
それくらいニノの世界も魅力的。

全部含めて、いい作品です。本当に。

2021年 年間ベスト

  1. 辻村深月「琥珀の夏」
  2. 辻村深月「図書室で暮らしたい」
  3. 豊島ミホ「神田川デイズ」
  4. 周木律「伽藍堂の殺人 〜Banach-Tarski Paradox〜」
  5. 竹宮ゆゆこ「応えろ生きてる星」
  6. 最果タヒ「渦森今日子は宇宙に期待しない」
  7. 芦沢央「いつかの人質」
  8. 周木律「眼球堂の殺人 〜The Book〜」
  9. 周木律「鏡面堂の殺人 〜Theory of Relativity〜」
  10. 綾瀬まる「やがて海へと届く」
  11. 麻耶雄嵩「螢」
  12. 周木律「五覚堂の殺人 〜Burning Ship〜」
  13. 周木律「大聖堂の殺人 〜The Books〜」
  14. 葵遼太「処女のまま死ぬやつなんていない、みんな世の中にやられちまうからな」
  15. 塔山郁「人喰いの家」
  16. 浅倉秋成「六人の嘘つきな大学生」
  17. 石川宗生「半分世界」
  18. 周木律「双孔堂の殺人 〜Double Torus〜」
  19. 周防柳「余命二億円」
  20. 桜井美奈「塀の中の美容室」
  21. 周木律「教会堂の殺人 〜Game Theory〜」
  22. 清水カルマ「禁じられた遊び」
  23. 宿野かほる「ルビンの壺が割れた」
  24. 鳥飼否宇「逆説的 十三人の申し分なき重罪人」
  25. 島田雅彦「預言者の名前」
  26. 星新一「天国からの道」
  27. 折原一「灰色の仮面」
  28. 大村あつし「エブリリトルシング」
  29. 倉井眉介「怪物の木こり」