桜井美奈「塀の中の美容室」

刑務所の中にある美容室を舞台にした連作短編集。
この舞台を設定しただけで結構勝ち。
とても魅力的な設定だ。
文章は平坦で今時。一風変わった設定の割には読みやすく、そりゃ流行るわ。って感じ。

あらすじ

『ご』と入力すると『ゴメン』と出てきて……『ゴメン。今日も仕事でダメになった』の一文ができあがるーー。激務が続く番組制作会社で働く芦原志穂。彼女は今日も恋人にデートのキャンセルを告げるメールを打っていた。最近では「次はいつ会えそう」というメールすら届かない。そんな中、志穂は上司からの命令で、刑務所の中の美容室を取材することになるのだがーー。彼女たちは、なぜそこに髪を切りにいくのか。刑務所の中で営業を行う美容室を舞台にした、感動の連作短編集。
引用: 出版社より

ネタバレありの感想

漫画にもなっているようで、表紙は漫画の方がいい。
小説文庫版の表紙は主人公である葉留が晴れやかな表情で自分の髪を切っているイラスト。
ちょっと意味がわからない。
出版社。こういうところもうちょっとがんばった方がいいですよ。

さて、肝心の中身。
とても読みやすく、あっという間に読了。
割と深刻になり得るシーンもあるものの、さらりと書き切っている点はいい点でもあり、残念な点でもある。
だが、連作短編集として、サクサク読めていき、話が少しつながってくる感じはなかなか良き。

ヒューマンドラマを描くにはそれぞれの短編が短すぎた気はするものの、それが葉留と客の距離感を演出しているようにも感じられて残酷にも、優しさにも感じられる。
文体の読みやすさも合わせ、とても余白(読者の想像の余地が入る部分)の多い作品だと感じた。

実際に近所にこんな美容室があったとして、行けるのか。
行ったらなんてことなかった、と思うのだろうが、それでも色眼鏡無しで入店(?)できるのか。
そんな視点も少しだけあるのはとてもよかった。

2021年 年間ベスト

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  19. 周防柳「余命二億円」
  20. 桜井美奈「塀の中の美容室」
  21. 周木律「教会堂の殺人 〜Game Theory〜」
  22. 清水カルマ「禁じられた遊び」
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  24. 島田雅彦「預言者の名前」
  25. 星新一「天国からの道」
  26. 折原一「灰色の仮面」
  27. 大村あつし「エブリリトルシング」
  28. 倉井眉介「怪物の木こり」