葵遼太「処女のまま死ぬやつなんていない、みんな世の中にやられちまうからな」

タイトル勝ち。
カート・コバーンの名言だそうで、すげえこというな、カート・コバーンは。
内容、文体共に、とても現代的な文芸作品。
さすが新潮文庫nex。という感じの作品。

あらすじ

彼女は死んだ。そして僕らは、出会った。ねーねーねー。高校三年生の朝は、意外な声に遮られた。狸寝入りを決め込む僕に話しかけてきた同級生、白波瀬巳緒。そして、隣の席の、綺麗な声が耳に残る少女、御堂楓。留年し、居場所がないと思った学校のはずなのに、気づけば僕の周りに輪ができていく。胸はまだ、痛む。あの笑顔を思い出す。でも、彼女の歌声が響く。ほんのり温かいユーモアと切なさが心を打つ、最旬青春小説。
引用:出版社より 

ネタバレありの感想

「難病もの」とでも言えばいいのでしょうか。
とてもありがちな設定ですが、そこから少し外れるのが、ヒロインはすでに亡くなっている。
そのため、「残り僅かになった人生を大事にしよう」というものでは無く、残されたもの、生きているものの生き辛さや喪失感がテーマ。

残された彼氏である佐藤が、巻き込まれる形でバンドを組み、活動をしていく中で少しづつ心を溶かしていく、といういかにもなストーリー。
バンドメンバーもギャル、オタク、吃音症の美少女、と、ちょっといかにもなメンバー。

今の佐藤を予言したかのような手紙が届くのは「ご都合主義すごいな」って思いながら読んでいたが、そこにちゃんと「膨大なパターンの手紙を残していた」というトリック(?)を使ったのはすごくよかった。
こういう部分やヒロインがすでにいなくなっているところから話を始めている部分などから作者の「(一昔前の)ケータイ小説」に対するアンチテーゼのようなものが感じられて良き。

そして、音楽小説としても、必要以上に語りすぎていない印象でそこはよかった。

と、全体的に満足している作品ではあるけど、どこか小さくまとまってしまった印象がある。
タイトルのキャッチーさ、力強さに負けていると言ってしまうと言い過ぎかな。

2021年 年間ベスト

  1. 辻村深月「琥珀の夏」
  2. 辻村深月「図書室で暮らしたい」
  3. 豊島ミホ「神田川デイズ」
  4. 周木律「伽藍堂の殺人 〜Banach-Tarski Paradox〜」
  5. 竹宮ゆゆこ「応えろ生きてる星」
  6. 最果タヒ「渦森今日子は宇宙に期待しない」
  7. 芦沢央「いつかの人質」
  8. 周木律「眼球堂の殺人 〜The Book〜」
  9. 周木律「鏡面堂の殺人 〜Theory of Relativity〜」
  10. 綾瀬まる「やがて海へと届く」
  11. 麻耶雄嵩「螢」
  12. 周木律「五覚堂の殺人 〜Burning Ship〜」
  13. 周木律「大聖堂の殺人 〜The Books〜」
  14. 葵遼太「処女のまま死ぬやつなんていない、みんな世の中にやられちまうからな」
  15. 塔山郁「人喰いの家」
  16. 浅倉秋成「六人の嘘つきな大学生」
  17. 石川宗生「半分世界」
  18. 周木律「双孔堂の殺人 〜Double Torus〜」
  19. 周防柳「余命二億円」
  20. 桜井美奈「塀の中の美容室」
  21. 周木律「教会堂の殺人 〜Game Theory〜」
  22. 清水カルマ「禁じられた遊び」
  23. 鳥飼否宇「逆説的 十三人の申し分なき重罪人」
  24. 島田雅彦「預言者の名前」
  25. 星新一「天国からの道」
  26. 折原一「灰色の仮面」
  27. 大村あつし「エブリリトルシング」
  28. 倉井眉介「怪物の木こり」