豊島ミホ「神田川デイズ」

大好きな作家のうちの一人豊島ミホさん。
ダメな人を描くのがとても上手。
ダメな人をダメなままにしないが、安易に希望を語るわけでも無い。そういうところが大好き。
本書「神田川デイズ」もとても良いダメ人間たちの短編集。

あらすじ

世界は自分のために回ってるんじゃない、ことが、じんわりと身に滲みてきた大学時代……それでも、あたしたちは生きてゆく。凹み、泣き、ときに笑い、うっかり恋したりしながら。
引用: 出版社より

ネタバレありの感想

あらすじを読むだけでも、胸にぐっと来てしまう。
大学を舞台にした短編集であるが、本書に出てくる登場人物たちは皆”学生時代”を謳歌していない。

世間は簡単に「自分に自信を持て」と言う。
どうやら自分に自信を持てない人間は失格らしい。
そんなことない世の中であって欲しい。
自信の無い人間でも正々堂々と生きていていい世の中であって欲しい。

本書を読んでそんなことを思った。
好きだった短編のいくつかの感想をば。

見ろ、空は白む

「アルプススタンドのはしの方」を思い出した。
豊島ミホさんが”お笑い”というツールに対してリスペクトをすごく持っていることがわかるのが良き。

いちごに朝露、映るは空

本書の中で一番好き。
道子の焦燥感や、学生時代という閉塞感がすごくうまく表現できているのに、爽快感がすごくある。
大好きな一編。

どこまで行けるか言わないで

僕も学生時代に映画を撮ったりしたので、思い出すことがいろいろ。
出てくる映画のチョイスもすごくいい。それっぽい、というよりそのもの。

花束になんかなりたくない

連作短編集らしい最後の一編。
基本的にこういう無理やりっぽいハッピーエンドへの持って行き方は好きじゃないことが多いんですけど、さすが豊島ミホさん。
これは良き。
後味の良さと、最後まで残るもどかしさが心地よい。

2021年 年間ベスト

  1. 辻村深月「琥珀の夏」
  2. 辻村深月「図書室で暮らしたい」
  3. 豊島ミホ「神田川デイズ」
  4. 周木律「伽藍堂の殺人 〜Banach-Tarski Paradox〜」
  5. 竹宮ゆゆこ「応えろ生きてる星」
  6. 最果タヒ「渦森今日子は宇宙に期待しない」
  7. 芦沢央「いつかの人質」
  8. 周木律「眼球堂の殺人 〜The Book〜」
  9. 周木律「鏡面堂の殺人 〜Theory of Relativity〜」
  10. 綾瀬まる「やがて海へと届く」
  11. 麻耶雄嵩「螢」
  12. 周木律「五覚堂の殺人 〜Burning Ship〜」
  13. 周木律「大聖堂の殺人 〜The Books〜」
  14. 葵遼太「処女のまま死ぬやつなんていない、みんな世の中にやられちまうからな」
  15. 塔山郁「人喰いの家」
  16. 浅倉秋成「六人の嘘つきな大学生」
  17. 石川宗生「半分世界」
  18. 周木律「双孔堂の殺人 〜Double Torus〜」
  19. 周防柳「余命二億円」
  20. 桜井美奈「塀の中の美容室」
  21. 周木律「教会堂の殺人 〜Game Theory〜」
  22. 清水カルマ「禁じられた遊び」
  23. 宿野かほる「ルビンの壺が割れた」
  24. 鳥飼否宇「逆説的 十三人の申し分なき重罪人」
  25. 島田雅彦「預言者の名前」
  26. 星新一「天国からの道」
  27. 折原一「灰色の仮面」
  28. 大村あつし「エブリリトルシング」
  29. 倉井眉介「怪物の木こり」