挑戦的なタイトルと石黒正数さんの表紙がとても良くて気になっていた本書「叙述トリック短編集」。
動く帯の仕掛けや、読者への挑戦状など、期待は高まる。
けど、その期待を大きく超えるものではなかった。
*注意! この短編集はすべての短編に叙述トリックが含まれています。騙されないよう、気をつけてお読みください。本格ミステリ界の旗手が仕掛ける前代未聞の読者への挑戦状!
*注意! この短編集はすべての短編に叙述トリックが含まれています。騙されないよう、気をつけてお読みください。
本格ミステリ界の旗手が仕掛ける前代未聞の読者への挑戦状!
よく「叙述トリックはアンフェアだ」と言われてしまいます。これが叙述トリックというものの泣きどころです。
では、アンフェアにならずに叙述トリックを書く方法はないのでしょうか?
答えはノーです。最初に「この短編集はすべての話に叙述トリックが入っています」と断る。そうすれば皆、注意して読みますし、後出しではなくなります。
問題は「それで本当に読者を騙せるのか?」という点です。最初に「叙述トリックが入っています」と断ってしまったら、それ自体がすでに大胆なネタバレであり、読者は簡単に真相を見抜いてしまうのではないでしょうか?
そこに挑戦したのが本書です。果たして、この挑戦は無謀なのでしょうか? そうでもないのでしょうか?その答えは、皆様が本書の事件を解き明かせるかどうか、で決まります。(「読者への挑戦状」より一部抜粋)
引用:楽天ブックス
叙述トリックがある、というのはそれですでにネタバレである、という問題はまさしくその通りで、本屋や出版社を恨みつつも、そういう売り方した方が売れるんだろうし、実際僕も気になるので仕方ないかな、という気持ち。
本書は「全ての短編に叙述トリックがある」と、作者からきちんと公言されているおかげで、そこの心配は全くなくなるが、やはり身構えて読んでしまうとなかなかハードルは上がってしまう。
本書は全ての短編でそのハードルを綺麗に超えたのか、というと難しいところでしたね。
叙述トリックですよ、と聞いていたらこれはもうなんとなく分かってしまった。
軽すぎる文体や、ギャグのテンションも合わずこの時点で少し冷めてしまっていた。
全く騙されず。
堀木がなんで、あの人を松本さんって思っているのか(いつ松本さんを認識したのか)がずうっと疑問だった。
堀木と平松さんの行動も不自然で恋愛ものとしてもちょっと物足りない。
本書で一番好き。
だからなんだよ!って感じはあるけど、このくだらなさにも慣れてきたのか、楽しめたし気持ち良く騙された。
これは確実に失敗でしょう。
作中作になっている時点で、その本がいつ刊行されていようが過去を描いている可能性はすぐに思いついてしまう。
本書では一番ミステリーらしい短編。
ただ、叙述部分は残念ながらちゃんと読んでしまったので、気付いてしまった。
それでも、探偵が犯人を絞っていく過程はミステリーしてて良かった。
匂わせが強くて探偵役=犯人というのはバレバレじゃないかな。
それこそ突っ込まれていたけど、こけしを監視するカメラがないのはヒントとして大きすぎるかな。
そこをうまく隠蔽できていたらもうちょっと印象かわったんじゃなかろうか。
なるほど。
「あとがき」という短編。
タブーと言えばタブー。こういう裏技こそが叙述トリックだと思う。
この大技にもっと集中した方が好みの一冊になったかもしれない。
冒頭の読者への挑戦状がヒント大きすぎたな。
「あとがき」を短編として扱ったのはびっくりしたけど、話数の認識をずらそうとしているのはすぐに分かってしまった。
そもそも、後ろから語るのも分かりやすすぎるんだよなぁ。
そして、「一人だけ、すべての話に同じ人が登場している」ってのも、だから何?
なんですよね。
それで事件が解決するわけでも、そこから何か大きな展開があるわけでもなく、ただ仕掛けのための仕掛け。
叙述トリックってそういうもの、と言えばそういうものですが、ちょっと残念。