第57回メフィスト賞受賞作。
大好きなメフィスト賞。
ほとんどカフカの「変身」。当然意識はしていると思う。
カフカの「変身」も引きこもりや認知症の比喩ではないか、と語られたりしますが、本書「人間に向いてない」は比喩でもなんでも無く、引きこもりが異形に姿を変えてしまう。
とある若者の間で流行する奇病、異形性変異症候群にかかり、一夜にしておぞましい芋虫に変貌した息子優一。それは母美晴の、悩める日々の始まりでもあった。夫の無理解。失われる正気。理解不能な子に向ける、その眼差しの中の盲点。一体この病の正体は。嫌悪感の中に感動を描いてみせた稀代のメフィスト賞受賞作。
引用:楽天ブックス
「異形性変異症候群(ミュータント・シンドローム)」という病が流行った世界(と言ってもどうやら日本でしか発症していないようだけど)。
ニートや引きこもりなど社会的弱者がかかるその病では、若者が様々な異形に姿を変える。
そのどれもがあまりに異形すぎる。
とにかく読んでいて嫌悪感がすごかった。
主人公美晴の息子優一は、それこそカフカの「変身」と同じく芋虫へと姿を変える。
カフカのこともあって、最初ただの大きな芋虫に近い異形かと想像していたらどうやら足の代わりに人間の指がたくさん生えているよう。
そんな描写を読んだ瞬間、鳥肌がたった。
これはビジュアルの無い媒体だからこそ出来た荒技だろう。
小説という媒体をうまく使った見事な演出。
他の異形達もそれぞれ、犬をベースにしていたり、植物をベースにしていたり、でもそれぞれ恐ろしい部分があって、その描写がどれも見事。
本書は成長物語だ。
だが、本書がとても独特なものとなっているのは、「母親」の成長物語だからだろう。
成長物語というと、多くは子供や若者が成長していく。
もちろん、母親が成長するものもあるだろうが、それも、子供や家族と一緒に、というものが多いんじゃなかろうか。
本書ではあくまで「母親」に焦点をあてた潔さがとても良き。
美晴の心が少しでも穏やかでいてくれる間は、読んでいる僕も心穏やかでいられた。
突拍子も無い世界観であるはずなのに、結構没入して読んでしまった。
相性が良いのか、黒澤いづみさんの筆力か。
次回作がとても楽しみ。
これまで、エンタメに振り切った作品が多かったメフィスト賞ですが、割と文学寄りな作品だった。
もりろんメフィストらしいエンタメ感はある。
読了後表紙見ると、グッとくるものがあった。
良き。