阿川せんり「パライゾ」

「厭世マニュアル」で一気に阿川せんりさんのファンになってしまった気がするので、最新作を僕にしては珍しく単行本で購入。
「厭世マニュアル」も素晴らしく良かったし、本書「パライゾ」もとてもとても良かった。

あらすじ

あらゆる人間が一瞬にして黒い塊となった世界。ヒトのままの姿で取り残された者の共通点は●●●だった…。崩壊していく日常の中で残された者が選ぶ選択とは?新進気鋭の作家が挑む衝撃のディストピア小説!
引用:楽天ブックス

ネタバレなしの感想

阿川せんりさんの本は「厭世マニュアル」に続いて2作目、ということで作者さんがどういったジャンルの小説を得意としているのかは知らないんだけど、「アリハラせんぱいと救えないやっかいさん」、「ウチらは悪くないのです。」と、タイトルを見るとこれまでは青春小説的なものを得意としていたのかな?と想像。

あらすじで生き残ったのがちゃんと「●●●」と隠されているのがいいですね。
と言うことで、以下は「●●●」についてもネタバレしてますので、お気をつけください。

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ネタバレありの感想

終末世界が舞台ではあるが、”終末世界”と聞いて期待するような物語ではない。
突如、あらゆる人間が黒い塊になった世界で生き残った数名の男女(その全員が人殺し)のオムニバスストーリー。
そこからなんとなく感じるロマンチックな物語や生き残りをかけたサバイバル、黒い塊の正体や原因を探っていくSF的なストーリーでは全くないです。

終末世界で生き残った人殺しが、過去に想いを馳せたり、やけに今を謳歌(しようと)していたり、後悔していたり、と。

2人組みなんかが出てきてもロマンとは終始程遠いままだし、サバイバルも人のいなくなったコンビニでおにぎりや飲み物を取るくらい、黒い塊になった理由も、そして人殺しだけがそうならなかった理由も(はっきりとは)語られることが無いまま。

世界観の描き方のバランス感覚がとても面白い。
東京が多く出てくるんだけど、駅の〇〇口など、そこを知っている人にとってはもちろん、知らない人でも想像はつきやすいだろう。
しかし、もちろんだけどその場所には黒い塊ばかりで異常なほど非現実的。
黒い塊に関しても「鳥のようだ」と描写もありその風景は自然と頭の中に浮かんでくる。
この現実感と非現実感の境界線がとても独特な世界観を演出している。

人間が絶滅したのに人殺しだけが生き残っているのは「人殺し=人でなし」だからだ、と言った、少女。
つまりそれは「人殺しでさえなければ、他にどんなに悪いことをしていても人である」という優しい視点すらある。

僕は普段ミステリーが好きなので「殺人」なんてものはたくさん読んでいる。
と言うよりもフィクションには殺人や人死にがつきものと言ってもいい。
そんな殺人という行為に対して阿川せんりさんなりにまっすぐ向き合った一冊。
哲学書のような気持ちになりつつ、不思議とエンターテインメントとしても最高に優れた一冊。
人は選ぶかもしれないけど、名著だ。
良き良き。
最高。

やっぱり阿川せんりさん大好きなので集めましょう。買いましょう。
好き。

2020年 年間ベスト

  1. 阿川せんり「パライゾ」
  2. 辻村深月「かがみの孤城」
  3. 阿川せんり「厭世マニュアル」
  4. 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ」
  5. 芦沢央「許されようとは思いません」
  6. 辻村深月「ぼくのメジャースプーン」
  7. 綿矢りさ「蹴りたい背中」
  8. 朝井リョウ「星やどりの声」
  9. 辻村深月「島はぼくらと」
  10. 竹宮ゆゆこ「あなたはここで、息ができるの?」
  11. 辻村深月「朝が来た」
  12. 朝井リョウ「世にも奇妙な君物語」
  13. 詠坂雄二「リロ・グラ・シスタ」
  14. 青木祐子「嘘つき女さくらちゃんの告白」
  15. 辻村深月「子どもたちは夜と遊ぶ」
  16. 澤村伊智「ぼぎわんが、来る」
  17. ポール・アルテ「第四の扉」
  18. 辻村深月「家族シアター」
  19. 辻村深月「スロウハイツの神様」
  20. 彩坂美月「僕らの世界が終わる頃」
  21. いしいしんじ「ぶらんこ乗り」
  22. 服部まゆみ「この闇と光」
  23. こだま「夫のちんぽが入らない」
  24. こざわたまこ「負け逃げ」
  25. 辻村深月「東京會舘とわたし」
  26. 黒澤いづみ「人間に向いてない」
  27. まさきとしか「完璧な母親」
  28. 湊かなえ「絶唱」
  29. 西尾維新「掟上今日子の推薦文」
  30. 伊坂幸太郎「陽気なギャングは三つ数えろ」
  31. 伊坂幸太郎「陽気なギャングが地球を回す」
  32. 詠坂雄二「人ノ町」
  33. 井上ひさし「十二人の手紙」
  34. 似鳥鶏「叙述トリック短編集」
  35. 一條次郎「レプリカたちの夜」
  36. 冲方丁「もらい泣き」
  37. 東野圭吾「恋のゴンドラ」
  38. 伊坂幸太郎「陽気なギャングの日常と襲撃」
  39. 西尾維新「掟上今日子の備忘録」
  40. 萩原麻里「呪殺島の殺人」
  41. 矢野龍王「極限推理コロシアム」
  42. 村崎友「校庭には誰もいない」
  43. 岡嶋二人「タイトルマッチ」
  44. 歌野晶午「舞田ひとみ11歳、ダンスときどき探偵」
  45. 佐藤究「QJKJQ」
  46. 櫻いいよ「交換ウソ日記」
  47. 辻村深月選「スペシャル・ブレンド・ミステリー 謎008」
  48. 阿藤玲「お人好しの放課後 (御出学園帰宅部の冒険) 」
  49. 漢 a.k.a. GAMI「ヒップホップ・ドリーム」
  50. 郷一郎「名無しの十字架」
  51. 永嶋恵美「明日の話はしない」
  52. 小嶋陽太郎「気障でけっこうです」
  53. 藤野恵美「ぼくの嘘」
  54. 鈴木おさむ「名刺ゲーム」
  55. 緒川怜「冤罪死刑」