素晴らしくよかった。
ものすごくフィクション的な語り口で綴られるが、物語はものすごく生々しい。
文庫版は浅野いにおが表紙。この表紙がとても良くて購入。
中身はさらに良かった。現代の「人間失格」。
単行本の表紙はたえさんかな?これもすごく良き。小説としてもとても好きだし、たえさんの絵もすごく良いので単行本も買っちゃおうかしらん。と思ってしまうくらい大好きな小説。
人生、マスクが必需品。
自称「口裂け女」ことくにさきみさとは、札幌在住の22歳フリーター。
他人とはマスクを隔てた最低限の関わりで生きてきたが、諸事情により、避けてきた人々と向き合う決意をした。
自己陶酔先輩の相手をし、ひきこもりの元親友を説得し……やっかい事に巻き込まれ四苦八苦する口裂けだが、周囲の評価は確実に変化していきーー?
衝撃の結末とある「勇気」に痺れる、反逆の青春小説!
引用:楽天ブックス
自意識をこじらせまくった語り口はとても独特で読み辛いと思ってしまう人も多いと思います。
実際僕も目滑りしてしまう場面もいくつかあり、決して読みやすいと言えるようなものではなかった。
それでも、口裂けのこれまで(過去)と、今(現在)、これから(未来)が気になってしまい、どんどん読み進んでしまった。
自意識をこじらせた一人称小説ということで、太宰治「人間失格」直系の小説。
作者の阿川せんりさんも「人間失格」を強く意識しているんじゃないかと思う。
「人間失格」も本書「厭世マニュアル」も主人公がとても愛らしく可笑しい。
そんな共通点というか、似た匂いというか、生々しい作家性を感じる。
口裂けが親からもらった手紙は結局読まずに捨ててしまい、口裂けの過去はわからないまま。
それは、小説として、物語として、フィクションとして、あまりに不親切だと思う。
でも、口裂けが選んだ行動は”親からの手紙を読まずに捨てる”というもの。
彼女が選んだ行動に対して、第三者である読者が文句なんかつけられるわけもない。
そんなすっきりしないはずのストーリー展開であるにも関わらず、ラストの口裂けの叫びは、とても気持ちよくて、よくぞ言ってくれた、と胸を打つ。
現実という強者に立ち向かう主人公というのはやっぱり見ていて気持ちいい。
”店長”は別として、”アンサーセンパイ”や”ざしき女”はもちろんいい奴では無いどころか悪い奴・嫌な奴だろう。
それでも、一番悪いのは”口裂け”なのは間違い。
ぬるま湯の現状に甘え、そこですらうまくやれず、文句ばかり。
それでも、口裂けにも幸せになる権利はある。
小説に何を求めるか、というのは人それぞれ色々あるのはもちろんですが、やはり自分語りというのは良いですね。
大好きな小説。
阿川せんりさん。集めよう。
良き良き。