芦沢央「許されようとは思いません」

芦沢央さんはこれまで「罪の余白」「悪いものが、来ませんように」を読んでて、割と好きな方の作家さんだな、とは思ってはいたんですけど、本書「許されようとは思いません」で一気に完全に好きな作家になった。
5編からなる短編集。
短編集よりも長編が好きな僕ですが、短編集ならではの切れ味するどいミステリーっていうのもあって、本書もそういった名作の一つ。

あらすじ

「これでおまえも一人前だな」入社三年目の夏、常に最下位だった営業成績を大きく上げた修哉。上司にも褒められ、誇らしい気持ちに。だが売上伝票を見返して全身が強張る。本来の注文の11倍もの誤受注をしていた──。躍進中の子役とその祖母、凄惨な運命を作品に刻む画家、姉の逮捕に混乱する主婦、祖母の納骨のため寒村を訪れた青年。人の心に潜む闇を巧緻なミステリーに昇華させた 5 編。
引用:楽天ブックス

ネタバレありの感想

目撃者はいなかった

実際には1枚しか注文を受けていない木材を”11枚”と打ち間違えていたため、その辻褄を合わせるためにドタバタするという、なんとなく地味なミステリーだな、と思っていたら後半急加速。
短編という制約の中だと急な方向転換はすごく効果的。
”自分のため”にした行動がドミノ的に自分を追い込んでいく良きミステリー。
長編にもできそうな設定だけど短編だからこそ光ってる。

ありがとう、ばあば

怖っ!
真冬のホテルのバルコニーに閉じ込められたばあば。
このままだと、凍死は間違い無いというのに、かわいがってきた孫の杏は窓を開けてくれないという恐ろしい状況。
ばあばは、子役として育てた杏がなぜ部屋に入れてくれないのかを考える。
杏の気持ちを無視してきたことを謝るも、それも違って、驚愕の真相。
見せ方上手い。

絵の中の男

この短編の中ではこれが一番イマイチだったな。
太宰治の「駆込み訴え」のような作りではあるものの、テンポ感や緊迫感なんかがやっぱり太宰治と比べると低いかな、という感じ。

姉のように

見事に騙された。
すごく好きな良き叙述トリック。
叙述トリックとはシステムを逆手に取ったトリックだと思うんですけど、ミステリーでよくある序文をうまく使っている。
冒頭、菜穂子という女性が3歳の長女を虐待死させたという新聞記事が掲載されている。
そして、事件を起こした姉の事で悩んでいる「私」。
「私」はそこからボタンを掛け違えていき、だんだんと娘に暴力をふるってしまうように、暴力は伝染していく、という話かと思いきや、長女を殺した菜穂子=「私」で、「私」の姉の犯罪は知人の家からお金や物を盗んでいたというものだった。
犯罪に大小は無いものの、どうしても印象としてはなんでそれだけの事がこんな事に。と思ってしまう。
途中、やけに”貧乏”というキーワードが印象に残っており、ヒントはたくさん。それでも驚愕のラストだった。
良き。
良き。

許されようとは思いません

表題作。
これもよかった。
祖母が殺人を犯した諒一が婚約者の水絵と、祖母の暮らした村に納骨に行き、そこで祖母がなぜ殺人を犯してしまったのか、というのを推理するホワイダニットもの。
真相がわかったからといって誰かが救われるわけではないのかもしれないけど、死者の事も思える諒一と水絵はとても素敵な人達で悲しい物語にも救いがあって良き。
ボーナストラック的な表紙裏の2人のなれそめもとても良き。

まとめ

短編のミステリーとしてはかなりいい作品だと思う。
それこそ、米澤穂信「満願」のような歴史的な名作じゃなかろうか。
良き良き。
ちょっと芦沢央さんの作品意識して集めよう。

2020年 年間ベスト

  1. 阿川せんり「パライゾ」
  2. 辻村深月「かがみの孤城」
  3. 阿川せんり「厭世マニュアル」
  4. 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ」
  5. 芦沢央「許されようとは思いません」
  6. 辻村深月「ぼくのメジャースプーン」
  7. 綿矢りさ「蹴りたい背中」
  8. 朝井リョウ「星やどりの声」
  9. 辻村深月「凍りのくじら」
  10. 朝井リョウ「世にも奇妙な君物語」
  11. 詠坂雄二「リロ・グラ・シスタ」
  12. 辻村深月「子どもたちは夜と遊ぶ」
  13. 澤村伊智「ぼぎわんが、来る」
  14. ポール・アルテ「第四の扉」
  15. 辻村深月「家族シアター」
  16. 彩坂美月「僕らの世界が終わる頃」
  17. いしいしんじ「ぶらんこ乗り」
  18. 服部まゆみ「この闇と光」
  19. こだま「夫のちんぽが入らない」
  20. 黒澤いづみ「人間に向いてない」
  21. まさきとしか「完璧な母親」
  22. 湊かなえ「絶唱」
  23. 伊坂幸太郎「陽気なギャングは三つ数えろ」
  24. 伊坂幸太郎「陽気なギャングが地球を回す」
  25. 詠坂雄二「人ノ町」
  26. 似鳥鶏「叙述トリック短編集」
  27. 一條次郎「レプリカたちの夜」
  28. 冲方丁「もらい泣き」
  29. 東野圭吾「恋のゴンドラ」
  30. 伊坂幸太郎「陽気なギャングの日常と襲撃」
  31. 岡嶋二人「タイトルマッチ」
  32. 歌野晶午「舞田ひとみ11歳、ダンスときどき探偵」
  33. 辻村深月選「スペシャル・ブレンド・ミステリー 謎008」
  34. 阿藤玲「お人好しの放課後 (御出学園帰宅部の冒険) 」
  35. 郷一郎「名無しの十字架」
  36. 永嶋恵美「明日の話はしない」
  37. 小嶋陽太郎「気障でけっこうです」
  38. 藤野恵美「ぼくの嘘」
  39. 鈴木おさむ「名刺ゲーム」
  40. 緒川怜「冤罪死刑」