”東京ではない海の見える町”という舞台が絶妙。
なんとなくイメージする”東京ではない場所”の柔らかさ、優しさに包まれた町を自分で想像できるのが良き。
僕は「海街diary」のせいもあると思うんだけど、鎌倉というか、由比ヶ浜をイメージしていた。
すごく良い小説だった。
家族ものがそこまで好みじゃないっていうのもあるし、メンタルも落ち着いている時期だから泣かなかったけど、メンタル次第ではボロボロ泣いちゃうだろうな。
喫茶店「星やどり」の描写が大事なこともあり、とても映像的な小説でありつつ、三男三女のキャラクターもとても立っていて生き生きとした小説。
良き良き。
東京ではない海の見える町で、喫茶店「星やどり」を営む早坂家。三男三女母ひとり。亡き父が残した名物のビーフシチューの香りに包まれた生活には、慎ましやかながらも確かな幸せがあった。しかし、常連客のおじいちゃんが店に姿を見せなくなった頃から、家族に少しずつ変化が。各々が葛藤を抱え息苦しくなる早坂家に、父が仕掛けた奇跡が降りそそぐとき、一家は家族を卒業する。著者が学生最後の夏に描いた、感動の物語。
引用:楽天ブックス
短編集のような構成で、三男三女のそれぞれを主人公にした、「長男 光彦」、「三男 真歩」、「二女 小春」、「二男 凌馬」、「三女 るり」、「長女 琴音」の全6章で構成されている。
それぞれに活躍の場面を持たせたのはすごく良き。
そしてそれぞれ見事にキャラクターを(持たせすぎなくらい)持たせたのはちょっと漫画的すぎるかな、と思ったものの、根っこに流れる部分は似たような部分を感じて”家族”感が出ていてすごくよかった。なんというか、似たようなことで怒る感じというか。
人物像はとにかくこの6人しか見えてこないのは大胆な構成。
とても大きな役割を持っているにも関わらず、母親はとても影が薄く、小説の軸となる父親ですら、6人の思い出の中で(嫌な言い方をするなら)美化された父親像しか出てこない。
そういうところからリアリティという点は弱い小説であるにも関わらず、本書「星やどりの声」は素晴らしい名作。
特に「三男 真歩」の話がすごくすごく好き。
6人の中で父親との思い出が圧倒的に少ないこともあり、一番”家族”に囚われているからこそ、”家族の外”を見ている。
この小説で描かれた事件は6人それぞれに何かを残したり、先に進められたりしているんだけど、本書の中では真歩の人生が一番大きく動いたと思う。
「三男 真歩」を読んだ時点で本書が名作だと確信できた。
良き良き。