辻村深月の”家族”をテーマにした短編集。
作者の辻村深月本人が母親になったからこそ書けた小説だろう。
”家族”というのはとても小さな社会で、その中での話なのでもちろん小説としてもとても小さな事件しか起こらない。それでもさすがの筆力でとても考えることや共感してしまう部分の多い名短編集。
「家族」で起こる、ささやかな大事件。いま一番旬な作家、辻村深月の最新文庫。息子が小学六年の一年間「親父会」なる父親だけの集まりに参加することになった私。「夢は学校の先生」という息子が憧れる熱血漢の担任教師は積極的に行事を企画。親子共々忘れられない一年となる。しかしその八年後、担任のある秘密が明かされる(「タイムカプセルの八年」より)。家族を描く心温まる全7編。
引用:楽天ブックス
あぁ、素晴らしい。
わかる。わかる。
自分の家族を苦手と思う気持ちや、それにも関わらず他人にバカにされるととてつもなく不快に感じてしまう複雑な感情。
わかる。
(悪い意味で)真面目でダサい姉に反発し、オシャレで可愛くあろうとした亜希。
それでも深い場所で尊敬しあう素晴らしい姉妹愛。
本短編も姉弟の対立。
ビジュアルバンドの追っかけをしている姉の真矢子とアイドルの追っかけをしているナオ。
外から見たら同じような2人だけど、一番対立しそうな音楽性。
お互い痛々しい(と思われてしまいそうな程の)ファンなんだけど、マナーの良いファンということで記事になったものをナオに見せる真矢子。
同じ音楽を愛するものとして、これも深い場所で通じ合った2人。素敵だ。
母親と娘の話。
進学校に特待生として入学した真面目な娘と、制服がかわいい女子大に娘を入学させたい母親。
短編内では母親がダメっぽく描かれているんだけど、これ「妹という祝福」と対比してみるとすごく興味深い。
真面目なことと可愛いこと、どっちが良い・悪いではなく、あくまで価値観の問題、というだけ。
短い話ですが、ラストは急展開で娘の妊娠発覚。相手は担任。
そこからの母娘の会話が少し可愛らしく胸がざわざわする。
父親と息子の話。
本書の中で一番好きな短編。
小学生時代の恩師・比留間に憧れて教師となった息子と、人間関係の苦手な父親の話。
息子の夢を守るため、苦手な人間関係を駆使して、タイムカプセルと埋める親父たち。
その絵面を想像しただけでニッコリしてしまうし、その後、父親の人間嫌いが少し治ってしまっているところにもニヤニヤしてしまう。
良き良き。
またもや姉妹の話。
一個違いの姉・はるかと妹・うみか。
はるかとうみかはお互いにコンプレックスを持っていて、コンプレックスとは言うものの、裏を返せば憧れというか尊敬というか。そんな複雑な姉妹。
お互いがコンプレックスを告白するシーンはとても心にくるものがありつつ、姉妹という関係性のおかげでほっこりもする。
これも良き。
お互いが少し距離を取ってしまっている孫と祖父。
どこかで昔見たんだけど感動した考え方があって”子どもが1歳なら母親も1歳”。と言うようなものだったんだけど、確かにな。
例えば2人目の子どもが生まれたとしても、2人の子どもの母親としてはまた0歳になりますよ。というようなものだったんだけど、それだけ親も苦労や苦悩があって試行錯誤してるんだろうな、と。
これはきっとその上の世代にも言えて、本短編に出てくる祖父もまだ祖父としての経験は少ない。
それで、すれ違うこともあるでしょう。というもの。
でも、”家族”だからこそ、簡単に同じ方向や、お互いを見つめ合うことができるんだな。
良き良き。
他の短編は中心はあくまで”誰かと誰か”の1対1の家族の話だったんですけど、本短編は夫、妻、息子が中心と言っていいのでは。
辻村深月のドラえもん好きを前面に押し出した短編。
書いてて気持ちよかっただろうなぁ。
なんというか、白い辻村深月、とでも言うのか。
”家族”をテーマにした時にもっと黒く、重く、ドロドロとしたものを描くこともできたでしょう。
でも、作者本人が母親として”家族”という絆の強さを信じているから本書のような1冊になったんだろうな。
良き良き。
名短編集でした。