綿矢りさ「蹴りたい背中」

文庫になったタイミングで読んで以来の再読。
初版が2007年みたいなので、13年振りか。
作者の綿谷りさが19才の時の作品で、19才でこの完成度。すげえ。

あらすじ

“この、もの哀しく丸まった、無防備な背中を蹴りたい”長谷川初実は、陸上部の高校1年生。ある日、オリチャンというモデルの熱狂的ファンであるにな川から、彼の部屋に招待されるが…クラスの余り者同士の奇妙な関係を描き、文学史上の事件となった127万部のベストセラー。史上最年少19歳での芥川賞受賞作。
引用:楽天ブックス

感想

とにかく徹底して一人称。
小説としての描写視点はもちろんのこと、徹底的に「私」が見た世界、聞いた世界、何よりも「私」が感じた世界。

19才でこの完成度に驚くけど、内容は19才だからこそ書けた作品。
いや、もしかしたらこれでも遅かったのかもしれない。
きっと「私」は綿矢りさ自身で、その綿矢りさが高校生の時に触れた世界をどれだけ鮮明に思い出して、どれだけ生々しく書けるのか、というチャレンジ的な作品。
でも、きっと17才の時の綿矢りさではさすがにここまでの完成度にはできなかったんじゃなかろうか。
19才でこの筆力って、本当にすごい。
この完成度と、この生々しさが同居しているのはなかなか奇跡的な作品なんじゃなかろうか。
書き出しからすごい。

さびしさは鳴る。耳が痛くなるほど高く澄んだ鈴の音で鳴り響いて、胸を締めつけるから、せめて周りには聞こえないように、私はプリントを指で千切る。

これ書ける?
なんだよこの、胸を握りしめてくる書き出しは。
こんな描写が出来る作家が

「ハツは、にな川のことが本当に好きなんだねっ。」

だってさ!
”さびしさは鳴る。””好きなんだね「っ」。”だよ。
この振り幅。

大人(先生やにな川の母親)を見て汚らしさや情けなさを感じたり、同級生(絹代や唾本)を見て劣等感や疎外感、優越感を感じたり、にな川を見て”何か”を感じる「私」。
子供から大人になるにつれ、この”何か”言葉に出来ない感情を持つというのは通過儀礼のようなものなんだと思う。そしてこの”何か”を物語として、小説として書き上げるのが文学なんだろう。
そりゃ、芥川賞取るわ。

めちゃめちゃ面白い。
良き良き。

「夫のちんぽが入らない」ではちんぽはちょっと入るし、「蹴りたい背中」では背中を蹴る。二度も。

2020年 年間ベスト

  1. 阿川せんり「パライゾ」
  2. 辻村深月「かがみの孤城」
  3. 阿川せんり「厭世マニュアル」
  4. 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ」
  5. 芦沢央「許されようとは思いません」
  6. 辻村深月「ぼくのメジャースプーン」
  7. 綿矢りさ「蹴りたい背中」
  8. 朝井リョウ「星やどりの声」
  9. 辻村深月「島はぼくらと」
  10. 竹宮ゆゆこ「あなたはここで、息ができるの?」
  11. 辻村深月「朝が来た」
  12. 朝井リョウ「世にも奇妙な君物語」
  13. 詠坂雄二「リロ・グラ・シスタ」
  14. 青木祐子「嘘つき女さくらちゃんの告白」
  15. 辻村深月「子どもたちは夜と遊ぶ」
  16. 澤村伊智「ぼぎわんが、来る」
  17. ポール・アルテ「第四の扉」
  18. 辻村深月「家族シアター」
  19. 辻村深月「スロウハイツの神様」
  20. 彩坂美月「僕らの世界が終わる頃」
  21. いしいしんじ「ぶらんこ乗り」
  22. 服部まゆみ「この闇と光」
  23. こだま「夫のちんぽが入らない」
  24. こざわたまこ「負け逃げ」
  25. 辻村深月「東京會舘とわたし」
  26. 黒澤いづみ「人間に向いてない」
  27. まさきとしか「完璧な母親」
  28. 湊かなえ「絶唱」
  29. 西尾維新「掟上今日子の推薦文」
  30. 伊坂幸太郎「陽気なギャングは三つ数えろ」
  31. 伊坂幸太郎「陽気なギャングが地球を回す」
  32. 詠坂雄二「人ノ町」
  33. 井上ひさし「十二人の手紙」
  34. 似鳥鶏「叙述トリック短編集」
  35. 一條次郎「レプリカたちの夜」
  36. 冲方丁「もらい泣き」
  37. 東野圭吾「恋のゴンドラ」
  38. 伊坂幸太郎「陽気なギャングの日常と襲撃」
  39. 西尾維新「掟上今日子の備忘録」
  40. 萩原麻里「呪殺島の殺人」
  41. 矢野龍王「極限推理コロシアム」
  42. 村崎友「校庭には誰もいない」
  43. 岡嶋二人「タイトルマッチ」
  44. 歌野晶午「舞田ひとみ11歳、ダンスときどき探偵」
  45. 佐藤究「QJKJQ」
  46. 櫻いいよ「交換ウソ日記」
  47. 辻村深月選「スペシャル・ブレンド・ミステリー 謎008」
  48. 阿藤玲「お人好しの放課後 (御出学園帰宅部の冒険) 」
  49. 漢 a.k.a. GAMI「ヒップホップ・ドリーム」
  50. 郷一郎「名無しの十字架」
  51. 永嶋恵美「明日の話はしない」
  52. 小嶋陽太郎「気障でけっこうです」
  53. 藤野恵美「ぼくの嘘」
  54. 鈴木おさむ「名刺ゲーム」
  55. 緒川怜「冤罪死刑」