第29回メフィスト賞受賞作。
タイトルがなんとなく今時すぎてスルーしていたものの、やはりメフィスト賞ということで読むことに。
そしたらやっぱり最高だ。
個人的にはやっぱり一番信用出来る賞だ。
本書「空を見上げる古い歌を口ずさむ」もとにかく魅力的な謎と、魅力的な町を作り上げてくれていて、とにかくワクワクが止まらない読み味。
みんなの顔が“のっぺらぼう”に見えるー。息子がそう言ったとき、僕は20年前に姿を消した兄に連絡を取った。家族みんなで暮らした懐かしいパルプ町。桜咲く“サクラバ”や六角交番、タンカス山など、あの町で起こった不思議な事件の真相を兄が語り始める。懐かしさがこみ上げるメフィスト賞受賞作。
引用:楽天ブックス
みんなの声が”のっぺらぼう”に見える。
そんな魅力的な謎から始まる本書。とは言うものの、そこに対する明確な答えは出ないまま小説は終わる。
そういう点では、ミステリーと聞いて、僕なんかが期待するようなものではない。
”メフィスト賞”という冠や、導入部分や語り口なんかも”ミステリーっぽい”ものではある。
殺人事件のようなものを目撃するが、他人の顔が”のっぺらぼう”に見えるため現場にいた人物が誰なのかわからない。というのはまさしくミステリーだ。
それでも、本書はミステリーというよりは、ファンタジーの要素の方が大きい。
もちろん現場にいた人物なんかは最終的には分かるものの、なぜ”のっぺらぼう”に見えたか、やそう言ったファンタジー部分は最後まで謎のまま。
ここを許せるかどうかで、本書の評価は大きく変わるだろう。
そして、僕は全然気にならなかったし、とにかく楽しかった。
物語の大半はキョウの過去の回想。
小学五年生のキョウが語る物語ということで、登場人物のほとんどがカタカナだったり、見ている世界の狭さなんかがノスタルジックな雰囲気が心地良いのに、その狭い世界の向こうにも大きな世界があるのが見えているのが、空恐ろしさもあって良き。
謎の解決や、ラストの展開なんかは、急すぎたり、いきなりすぎたりで、不満がないわけではない。
だけど、とにかく雰囲気がいい。
本書の世界観がとにかくいい。
”雰囲気小説”と言ってしまえばそれだけだけど、これだけの世界を構築出来るのは見事。
メフィスト賞らしく良い意味でとても”変な”読み心地。
続編もあるようで、それも早く読もう。
大好き大好き。