なんとなく気になっていたけど、初読みの作家。
読んでよかった。素晴らしい。
大好き。
また、追いたい作家が増えてしまった。積ん読まだまだたくさんあるのに、勘弁してよもう・・・
ありふれた雑居ビルで繰り広げられるいくつもの人間模様。シングルマザーのマッサージ師が踏み出す一歩、喘息持ちのカフェバー店長の恋、理想の男から逃れられないOLの決意…。思うようにいかないことばかりだけれど、かすかな光を求めてまた立ち上がる。もがき、傷つき、それでも前を向く人々の切実な思いが胸を震わせる、明日に向かうための五編の短編集。
引用:楽天ブックス
短編集なんだけど、ウツミマコトの「深海魚」という映画(これもフィクション)と、とある雑居ビルを中心に持ってきて連作短編集のような雰囲気を出した作品。
それぞれの作品で登場人物が横断したりはしているものの、基本的にはきっちり物語は別れていて、なぜわざわざウツミマコトと雑居ビルを中心に持ってきたのか。
と思いつつ、読んでいると一つの作品(ウツミマコトの「深海魚」)をそれぞれの登場人物が、どのような人生を送ってきて、どのような精神状態でその映画に触れたのかによって受け取り方が変わってしまう。っていうのは人間関係にも繋がり、そこがこの小説の一番語りたい部分なんじゃなかろうか。
そして、雑居ビルというのも、バベルの塔じゃないけど、創造と破壊みたいなことを表現しているんじゃなかろうか。
どの短編も緩やかな、起承転があり、その「転」で物語は終わっているのが本書の特徴的な部分。
それぞれの登場人物たちが、悩んだり苦んだ後、立ち直ろうとした・前に進もうと決めた瞬間でその短編は終わっている。
連作短編ということで、彼ら・彼女らのその後を描くこともできたのに、それをしなかったことにも作者の潔さと何か強い想いを感じる。
最後に収録されている「塔は崩れ、食事は止まず」だけはそこから、ほんの少しだけ先、「結」のような部分も見ることができ、一冊の本としてはとても爽快感のあるものに仕上がっている。
そのおかげか、本書の中で「塔は崩れ、食事は止まず」が一番好きなんだけど、それもそれまでの短編を全部読んだからなんだろうと思う。
サクッと読め、なおかつ心に何かが残るような、本当にいい一冊だった。
良き良き。