長編が書けなくなり、短編なら分量も少ないので、書けるのでは?と書いたものの、読み返してみると未熟な部分もあるが、自分にとって特別な作品達です。というような、言い訳とも取られかねない序文。
ですが、綺麗にまとまった作品も多く、結構なイヤミスもありつつ、いい短編集だと思いますよ。
ようこそ、裏本格の世界へーー(歌野晶午)
本格ミステリ大賞二度受賞作家による処女短編集を、新装版で。彼女が勤めに出たのは、このままでは姑を殺してしまうと思ったからだったーー。夫を亡くした妻が姑という「他人」に憎しみを募らせるさまを描く(表題作)。猫のように性悪な恋人のため、会社の金を使い込んだ青年。彼に降りかかった「呪い」とは(「猫部屋の亡者」)。全七編収録。鬼才初の短編集を、新装版で。
引用:楽天ブックス
所謂暗号もの。
「カチカチ鳥」なんかはなんとなく想像がつくけど、場所を示す暗号なんかは結構きれいな暗号だと思う。
それよりなにより、なんだろう、読んでいてなぜかすごくワクワクした。
軽妙なタッチで始まって、軽妙な感じを残しつつ、きちんと読者を裏切ってくれる。
この短編とても好きだ。
構造としては所謂作中作ってことではあるんだけど、そこまで幻想的な感じではなく軽妙な雰囲気を残したままなのがとても良き。
本書の中で一段落ちる作品。
オチはすぐに想像がついてしまうし、キャラクターもなんか薄い。
もうちょっと捻りが欲しかったかな。
語り口が変わるところがちょっと目滑りしてしまう。
精神病ものではあるが、歌野晶午の頭の良さというか整理されている感じが邪魔しているのか、そこまでの怖さがない。
少女が大人になり容姿が大きく変わるという点はままあることなので、不自然さはないが、この短編集に入っていると整形だったのかな?というところまでは簡単に想像がつく。
そこでオチにするかと思いきやもう一展開あったのは良き良き。
ドロドロ具合が良き良き。
キャラクター・時代背景にちょっと古臭さを感じてしまうが、面白い。
展開も予想できる範囲内の事ではあるが、語り手が変わる事での思考のずれがラストにすごく活きていると思う。
表題作。
すごくいい。
結構パンチ力のあるイヤミスなので、きついんだけど、ここまでやってくれちゃうと、さすがに読み応えがある。
純粋無垢な遊美の視点を挟むことでよりイヤミス度が高くなっているし、伏線としても活きている。
後味悪いですが、後味悪い作品なので、歌野晶午にしてやられたって感じだ。
歌野晶午は根っからのミステリーの人かと思っていたが、ドラマを描かせてもうまいな。
綺麗にまとまっているが、バラエティには富んでいてなかなか良き短編集じゃなかろうか。