ホラーは苦手だ。
怖いから苦手だ。
昔はこんなに怖がりじゃなくて、どちらかというと怖い話とか好きな方だった。
ある時「怖い話やお化け屋敷なんかは怖がった方が楽しいんじゃないか?」って思って、怖い怖い、と思い込んでいたらいつの間にか本当に苦手になってしまった。
なので、本書「きのうの影踏み」も結構長いこと積ん読していた。
辻村深月は他の作品読んでもホラーの影響は感じるし辻村深月本人はホラー好きなんだろうな、と思っていた。
ちなみに「ふちなしのかがみ」も積ん読中です。
あるホラー作家のもとに送られてきた手紙には、存在しない架空の歌手とラジオ番組のことが延々と綴られていたという。編集者たちの集まりによると、チェーンメールのように、何人かの作家にも届いているという。かくいう私にもその手紙は届いていた。その手紙のことを調べるうちに、文面の後ろのほう、文字が乱れて読み取れなくなっていた部分が、徐々に鮮明になってきている……。ある日、友人作家が手紙のことで相談があると言ってきた。なんと、その手紙、サイン会で手渡しされたという。誰がその人物だったかはわからない。けれど、確実に近づいてきているーー。(「手紙の主」)。その交差点はよく交通事故が起こる。かつてそこで亡くなった娘の霊が、巻き添えにしていると、事故死した娘の母親は言っているという。その娘が好きだったという「M」の字の入ったカップがいつもお供えされていた。ある雨の日、そのおばさんがふらふらと横断歩道にさしかかり……。死が母娘を分かつとも、つながろうとする見えない深い縁を繊細な筆致で描く「七つのカップ」。闇の世界の扉を一度開けてしまったらもう、戻れない。辻村深月が描く、あなたの隣にもそっとそこにある、後戻りできない恐くて、優しい世界。
引用:楽天ブックス
全13編の短編集。
十円参り
手紙の主
丘の上
殺したもの
スイッチ
私の町の占い師
やみあかご
だまだまマーク
マルとバツ
ナマハゲと私
タイムリミット
噂地図
七つのカップ
全13編ということで、一個一個はとても短く、移動時間でも読みやすい。
それでも、1週間くらいかかってしまった。
薄い本だったのに、ちょっと時間がかかってしまった。
1編読むと、つい本を一度閉じてしまう。そしてその短い物語から与えてもらった何かを一度ゆっくりと噛み締める時間があった。
どれも短いながらもとても良くて、とても怖いというか怖すぎるのも何編か。
いくつかの短編は短編というよりはエッセイのような切り口で書かれていてそれがまたリアルな感じを受けて演出も見事。演出なんですよね?本当にこんなことがあったんじゃないんですよね?
あぁ、せめて夏に読んでおいてよかった。
特に気に入ったものを何編か。
本書「きのうの影踏み」はとてもスタンダードな感じの怖い話から始まる。
オチの語っていたのがなっちゃんの方だった、というのは怖い話としてはありがちな感じで、裏切りというよりは様式美を守ったような作品。
昭和の空気感もあって、これぞって感じ。
語り口が心地よくてこういうのが読みたくて辻村深月を読んでいる。
スイッチを入れるのが、自分じゃないってのが怖いです。
これ怖い。怖すぎた。
やめてよ。ほんと。
電車の中で泣きそうになった。
読者(僕)は本書が怖い話ばかり集まっているというのは知っているので、子供が言う「だまだまマーク」も絶対に怖い言葉だって思っているのに、それを微笑ましいと思っている登場人物である母親たちがすごく遠くに感じられてその違和感もあって怖い。
ラストは「ほら見たことか!」だよ。
これも、怖い話としてはとてもありがちな展開ですけど、やっぱり辻村深月のうまさでとてもグッとくる作品になっている。
ラストの「七つのカップ」なんかみんなが求める辻村深月のような優しさのある「不思議で少し怖い話」で本書に収録する必要があったんだろうか?と思わなくもない。
本書はただただ怖い話の集まりでもよかったんじゃないかな。
でも、さすが辻村深月、読者を楽しませる気持ちと技術を両方きちんと持っていて、とても良き短編集でした。
当分読みたくないけど。
怖いから。