「21世紀の『そして誰もいなくなった』」ということで、プロットはみんな大好き連続殺人もの。
クローズドサークルとしてはこれまたみんな大好き雪山!
と、ミステリー好きにはたまらない1冊。
ジェリーフィッシュ(小型飛行船)にまつわる話が難しすぎて、SFミステリーのような感じを受けたけど、SFというよりは、架空のテクノロジーの発達によって改変された過去のお話。
難しい部分もあるんだけど、そこもちゃんとわかりやすく説明されていて、読者を煙に巻こうとしているわけではなく、その部分ではとてもフェア。
最高最高最高。
鮎川哲也賞。信頼できる賞だ。
いや、実際ジェリーフィッシュが実現できるのかどうかとかは知ったこっちゃないです。
特殊技術で開発され、航空機の歴史を変えた小型飛行船〈ジェリーフィッシュ〉。その発明者であるファイファー教授を中心とした技術開発メンバー6人は、新型ジェリーフィッシュの長距離航行性能の最終確認試験に臨んでいた。ところが航行試験中に、閉鎖状況の艇内でメンバーの一人が死体となって発見される。さらに、自動航行システムが暴走し、彼らは試験機ごと雪山に閉じ込められてしまう。脱出する術もない中、次々と犠牲者が……。21世紀の『そして誰もいなくなった』登場! 精緻に描かれた本格ミステリにして第26回鮎川哲也賞受賞作、待望の文庫化。
引用:楽天ブックス
叙述トリック+クローズドサークル。
叙述トリックとしてはちょっとアンフェアかな、と思わなくもない。
計画書に「エドワード」の名前が書かれていたけど、UFA社や空軍へ提出した計画書には「サイモン」の名前が記載されていたはずだし、身内向けと言えども「エドワード」の名前を記述した計画書を残してしまうのは、危機感がなさすぎるんですよね。
そして、そんな計画書ならジェリーフィッシュは2台でどっちに誰が乗るか記載してなきゃ、計画書としては不足が多すぎるし。
ここは、ちょっと読者へ向けたミスリードのためのミスリードすぎる感じがどうしても・・・
計画書自体がいらなかっただけだと思うんですけどね。
台詞や地の文だけで6人いるってことはいくらでも表現できたと思うんです。
まぁ、叙述部分は見事に騙されたんですけどね。
それでも本書「ジェリーフィッシュは凍らない」は最高に面白い。
それはまずクローズドサークルでの、「そして誰もいなくなった」感の楽しさ。
誰が犯人かわからないまま、どんどん被害者が増えていく緊張感。
まさに手に汗握るってやつですよ。
ウィリアムが発見した「エドワードに偽装した死体」の表記など振り返って読んでみると地の文では「彼」としか書かれていなくて注意深く読めば、エドワードのみ死が確定していない=犯人、というのはすごく簡単にわかるんだけど、読んでる時はそんな細かいところまで気にできない面白さがある。
物語の面白さで作者のトリックを隠されているのが見事。
警察側のマリアと漣のコンビも本当に最高。
マリア探偵役としてはちょっと珍しいタイプですよね。
軽い推理を何度も披露しては助手役に窘められて、それを繰り返してくうちに真相に辿りつくっていうのはなんかすごくかっこよかった。
ラストの「あんた、誰?」は最高にかっこよかった。
さすがの主人公!
「ブルーローズは眠らない」も絶対に読もう。