宮下奈都「たった、それだけ」

羊と鋼の森」で2016年の本屋大賞を受賞した宮下奈都。
大好きな作家のうちの一人。
「羊と鋼の森」も当然よかったし、「太陽のパスタ、豆のスープ」や「誰かが足りない」なんかもすごくよかった。
本書「たった、それだけ」こ素晴らしくよかった。楽しかった。

あらすじ

「逃げ切って」。贈賄の罪が発覚する前に、望月正幸を浮気相手の女性社員が逃がす。告発するのは自分だというのに―。正幸が失踪して、残された妻、ひとり娘、姉にたちまち試練の奔流が押し寄せる。正幸はどういう人間だったのか。私は何ができたか…。それぞれの視点で語られる彼女たちの内省と一歩前に踏み出そうとする“変化”。本屋大賞受賞作家が、人の心が織りなす人生の機微や不確かさを、精緻にすくいあげる。正幸のその後とともに、予想外の展開が待つ連作形式の感動作。
引用:楽天ブックス

ネタバレありの感想

望月正幸という男を中心に、彼の不倫相手や妻や娘など6人の人物を主役にした全6話。
そう、全6話なんである。
連作形式ではあるけど、短編集ではなく、全6話で構成された長編。
それでも、それぞれに繋がりはそんなに深くなく、どれも個別の話のようではあるが、望月正幸という人物を中心にしたおかげで同一世界の話というのが色濃く出ている。

第一話

望月正幸と不倫関係にあった女性が主役。
望月正幸は社内で他にも不倫している女性がいるし、不正も働いている。
それでも、彼が憎めないのは彼のことをきちんと思っている女性から見た世界だからなのか。
とてもドラマチックなシーンで第一話は終わる。
ここですでに完璧。

第二話

第二話は望月正幸の妻。
ホラーな展開にとまどいながら読む。妻から見た彼も魅力的な男性に見える。
それでも、娘の名前を「涙」とした彼の裏切りは不倫なんかよりもだいぶ重い。

第三話

望月正幸の姉から見た弟としての彼。
彼の人格がどう作られたのかがわかる訳では無いんだけど、彼の人格が特異なものだというのがわかる。
第三話ではあるが、ここまでで望月正幸の話は一旦終わり。
この構成も見事。

第四話

望月正幸からみるとここから未来の話。物語が動きだす。
小学3年生となった望月正幸の娘、「ルイ」の担任が主役に。
話の中心少しだけど、確実に変わりとまどいながらもガツンとくる。

第五話

高校生になった「ルイ」に想いを寄せる「トータ」が主役。
やけに漫画的なキャラクターで物語が少し軽くなる。
この軽さは、不幸な生い立ちと言われてもおかしくない「ルイ」の人生もそんなに不幸なものでは無いということの現れなのか。
そうするのがトータなのか。
「ルイ」が母親に一気に近づき、ラストは泣いた。
前に大きく進んだ気がする。

第六話

トータの友人「大橋」が主役。
トータの一言で介護施設で働くことになり、そこで出会った益田さんという先輩。
明記はされていないが、望月正幸なんだろう。
そうであれば「生きてさえいてくれれば」と願っていた妻も少しは報われるのかな。

まとめ

特別な複雑な物語でもない、というかどちらかというと物語としては凡庸なものだろう。
それでも、描写と筆力と名言の数々でこんなにも面白くなるんだな。
最高最高。

2019年 年間ベスト

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  6. 周木律「眼球堂の殺人」
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  8. 宮下奈都「たった、それだけ」
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  11. 壁井ユカコ「サマーサイダー」
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