豊島ミホ「夏が僕を抱く」

間違いなく好きな作家の1人豊島ミホの「夏が僕を抱く」。
彼女が時々放つ煌びやかで力強い一節が好きだ。
もちろん、相性なのかもしれないけど、僕なんかは簡単に貫かれてしまう。
本書でも輝く一節がいくつも。
それだけでも読んでよかったと思える。

あらすじ

ミーちゃんに再会したのは、夕立に降られて駆け込んだ渋谷のレコ屋の入口だった。昔一緒に田舎で虫を補ったり木に登ったりしていたミーちゃんは俄然大人になっていて、俺は彼女に夢中になった。しかし…。あんなに近くにいたのに、いつの間にか離れてしまった幼なじみ。それぞれの思い出の中にある、大事な時間と相手。せつない記憶を描く傑作短編集。
引用:楽天ブックス

ネタバレありの感想

本書は異性の幼なじみとの恋愛というクラシカルな少女漫画的なキーワードをテーマとした6つの短編集。

変身少女

いきなり書き出しからやられてしまった。

毬男が不良になるんなら私だってなるしかない。

この一文に全てが表れている。
昔あんなに仲良かった毬男を今は遠くから見ることしかできなくて、そんな毬男に近づきたくて毬男の好きそうな(あくまで勝手な想像だが)不良っぽい恰好をする、というだけの話。
それだけなのに、こんなにもキラキラして、友情にも溢れていて、最高。
スカートの丈を短くしようとするも、失敗してガタガタになってしまったり、知り合いの美容師には迷惑を掛けられず自分で髪の毛を染めて失敗してしまう様なんかあまりにもかわいくて力強くて愛おしい。
失敗するんだけど、スカートはお母さんが近所から借りてきてくれたものがちょうどいい短さになっていたり、染めるのは失敗するもののカット自体は大成功だったりと、間違えたにしても何かしら動くことの大切さを感じられるのも希望に満ち溢れた物語になっていて良き良き。

らくだとモノレール

いるかとらくだの少し、ほんの少しだけ複雑になった男女の関係性。
自分に距離も感覚も近い異性の存在が気になって、大人になってから思い返すとそれを恋と呼んでよかったのか少し自信がなくなるんだけど、あの当時確実にそれは恋だった。
ミシミシとベッドの軋む音を聞いて、その時いるかがどう思ったか、そしてその音が自慰だったと知った時、確実にいるかとらくだの間には性的な空気が流れてしまって、この関係がこれからどうなるのか。
って気になるところで終わるから短編っていいよね。

あさなぎ

少しづつ性的になっていき、「あさなぎ」ではキスから話が始まる。

2人の関係は本書で一番幼馴染っぽくないんだけど、園子の姉に対する喪失感のようなものを抱えた2人が同じ風景を見るというのはとてもドラマチックで美しい。
豊島ミホらしくないくらい情景描写に力が入っていてとても鮮やかなイメージを描かせるラストシーンが最高。

遠回りもまだ途中

もどかしい。
外見で明らかに劣っている男がヒーロー役となるのは小説ならでは。
こういうところである程度イメージを固めつつ、読者の想像の余地を残すのも豊島ミホはうまい。
豊島ミホは語りすぎない。
かませ犬役となるイケメンの将チンをわかりやすく「嫌なやつ」にしたのも短編という世界の中では正解だったと思う。
豊島ミホはバランス感覚もいい。

夏が僕を抱く

本書で唯一、主人公が男のハネ。
バンドをやっているとかっこつけながらも、全然活動どころか練習もしていない、いわゆるダメな男で、情けなく同性の僕から見ると嫌いなタイプの人間なんだけど、豊島ミホの視点からみるとなんとも愛くるしい。

ストロベリー・ホープ

イチゴの選別という仕事を舞台にしたのがまず素晴らしい。
イチゴというティーンエイジ感あふれるアイテムを、大人たちが選別しているというのもなんだか皮肉だし、選ばれなかったイチゴをジャムに作り変えるというのは、とても希望あふれる暗喩で、思わず笑顔になってしまう。
ジャムというのも、どこか官能的で、本書のテーマの一つである男女の性なんかも想起させている。

まとめ

異性の幼馴染という、漫画の好きな豊島ミホらしい少女漫画的テーマ。
みんなに残っている、未だ子供っぽい部分を刺激してくる。

ヒロインが不治の病に犯されなくても、ドロドロとした関係にならなくても、「近くに住んでいた」というだけで、豊島ミホはこんなドラマを作れる。
そして何よりも彼女の書く、彼女が発する輝く一節が僕を貫く。

2019年 年間ベスト

  1. 平山夢明「ダイナー」
  2. 辻村深月「小説 映画ドラえもん のび太の月面探査記」
  3. 紗倉まな「最低。」
  4. 井上真偽「聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた」
  5. 綿矢りさ「憤死」
  6. 周木律「眼球堂の殺人」
  7. 今村昌弘「屍人荘の殺人」
  8. 市川憂人「ジェリーフィッシュは凍らない」
  9. 宮下奈都「たった、それだけ」
  10. 小林泰三「アリス殺し」
  11. 古処誠二「アンノウン」
  12. 江戸川乱歩「パノラマ島奇談」
  13. 壁井ユカコ「サマーサイダー」
  14. 詠坂雄二「インサート・コイン(ズ) 」
  15. 高山一実「トラペジウム」
  16. 辻村深月「きのうの影踏み」
  17. 朱川湊人「都市伝説セピア」
  18. 桜庭一樹「少女七竈と七人の可愛そうな大人」
  19. 高橋由太「紅き虚空の下で」
  20. 美輪和音「強欲な羊」
  21. 瀬尾まいこ「戸村飯店 青春100連発」
  22. 金原ひとみ「星へ落ちる」
  23. 豊島ミホ「夏が僕を抱く」
  24. 降田天「彼女はもどらない」
  25. よしもとばなな「ハゴロモ」
  26. 河野裕「いなくなれ、群青」
  27. 神宮司いずみ「校舎五階の天才たち」
  28. サキ「サキ短編集」
  29. 中町信「天啓の殺意」
  30. 三浦しをん「小暮荘物語」
  31. 柾木政宗「朝比奈うさぎの謎解き錬愛術」
  32. 彩坂美月「少女は夏に閉ざされる」
  33. 東野圭吾「赤い指」
  34. 小林泰三「世界城」
  35. 湊かなえ「リバース」
  36. 西澤保彦「七回死んだ男」
  37. 麻耶雄嵩「貴族探偵対女探偵」
  38. 橋本紡「彩乃ちゃんのお告げ」
  39. 歌野晶午「正月十一日、鏡殺し」
  40. 西本秋「闇は僕らをつないでいる」
  41. 根本聡一郎「プロパガンダゲーム」
  42. 雫井脩介「犯罪小説家」
  43. はやみねかおる「そして5人がいなくなる」
  44. 下村敦史「真実の檻」
  45. 河合莞爾「デッドマン」
  46. 蒼井上鷹「出られない五人」
  47. 笹沢佐保「どんでん返し」
  48. 貫井徳郎「ドミノ倒し」
  49. 村崎友「夕暮れ密室」
  50. 澁澤龍彦「秘密結社の手帖」
  51. 北森鴻「共犯マジック」
  52. はやみねかおる「亡霊は夜歩く」
  53. ジェシー・ケラーマン「駄作」
  54. 大山誠一郎「密室蒐集家」
  55. 深木章子「敗者の告白」
  56. 清涼院流水「全日本じゃんけんトーナメント」
  57. 日高由香「ゴメンナサイ」
  58. 青柳碧人「猫河原家の人びと 一家全員、名探偵」
  59. 小山田浩子「穴」
  60. 長崎尚志「闇の伴走者 醍醐真司の博覧推理ファイル」
  61. 獅子文六「ちんちん電車」
  62. 堀内公太郎「スクールカースト殺人同窓会」
  63. 島田荘司「御手洗潔の挨拶」
  64. 堀内公太郎「スクールカースト殺人教室」
  65. 菅原和也「あなたは嘘を見抜けない」
  66. 松下麻理緒「誤算」
  67. 小林由香「ジャッジメント」
  68. 小杉健太郎「神の子(イエス・キリスト)の密室」
  69. 美輪和音「8番目のマリア」
  70. 大石圭「60秒の煉獄」
  71. 小林聡美「読まされ図書室」
  72. 藤岡真「ゲッベルスの贈り物」
  73. 矢部嵩「紗央里ちゃんの家」
  74. 浅暮三文「困った死体」
  75. おかもと(仮)「空想少女は悶絶中」