「駄作」。
なんとも大胆で挑戦的なタイトル。
そりゃ気になっちゃう。上手い。
そして、本のあらすじに書かれた【本書には奇想天外な展開があることを警告しておきます】の一文。
期待を煽られる。
世界的ベストセラー作家だった親友が死んだ。追悼式に出席した売れない作家プフェファコーンは、親友の手になる未発表の新作原稿を発見。秘かにその原稿を持ち出し、自作と偽って刊行すると、思惑通りの大ヒットとなったが……ベストセラー作家を両親に持つ著者が、その才能を開花させた驚天動地の傑作スリラー/掲出の書影は底本のものです
引用:楽天ブックス
評価が分かれる本ではあるが、この本を「一冊通して大好きだ」と言う人は少ないんじゃなかろうか。
振れ幅が大きすぎる。
僕としては中盤までは楽しかった。
プフェファコーンが自分のプライドに縛られながら文学に悩む姿はそれこそ文学であるし、友情や恋愛や娘への愛情や生活なんかを天秤にかけて「駄作」を世に出すことの苦悩や、その本が組織が用意した暗号だった。というところまではすごくワクワクして読んでいた。
だが、中盤以降プフェファコーンは文学者からスパイへと転職する。
スパイになるための特訓シーンから始まり国家レベルの陰謀など、スリラー小説と言うよりは冒険小説のような展開もありつつスケールはどんどんと大きくなるにも関わらず、登場人物はどんどんと世界が狭くなり、身近な人ばかりになってくる。
脱獄シーンにはびっくりだ。
プフェファコーンは脱獄した。
だけ。
大胆すぎる。自由すぎる。
ラストはいきなりファンタジー的というか村上春樹的というか。ここでもとても自由すぎるほどの自由さで物語は終わる。
あとがきを見ると本書「駄作」のテーマは「機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)」とのことで、つまりは「ご都合主義」ということだ。
そう考えるとシンプルすぎる脱獄シーンや、身近な人が鍵を握りすぎな展開もすべてフィクションとしての「ご都合主義」であり、メタ的な視点で書かれたものだとわかる。
個人的にそういう視点の小説は好きな方だけど、それを物語の中でもっと落とし込んでくれるとよかったな。