ジェシー・ケラーマン「駄作」

「駄作」。
なんとも大胆で挑戦的なタイトル。
そりゃ気になっちゃう。上手い。
そして、本のあらすじに書かれた【本書には奇想天外な展開があることを警告しておきます】の一文。
期待を煽られる。

あらすじ

世界的ベストセラー作家だった親友が死んだ。追悼式に出席した売れない作家プフェファコーンは、親友の手になる未発表の新作原稿を発見。秘かにその原稿を持ち出し、自作と偽って刊行すると、思惑通りの大ヒットとなったが……ベストセラー作家を両親に持つ著者が、その才能を開花させた驚天動地の傑作スリラー/掲出の書影は底本のものです
引用:楽天ブックス

ネタバレありの感想

評価が分かれる本ではあるが、この本を「一冊通して大好きだ」と言う人は少ないんじゃなかろうか。
振れ幅が大きすぎる。
僕としては中盤までは楽しかった。
プフェファコーンが自分のプライドに縛られながら文学に悩む姿はそれこそ文学であるし、友情や恋愛や娘への愛情や生活なんかを天秤にかけて「駄作」を世に出すことの苦悩や、その本が組織が用意した暗号だった。というところまではすごくワクワクして読んでいた。

だが、中盤以降プフェファコーンは文学者からスパイへと転職する。
スパイになるための特訓シーンから始まり国家レベルの陰謀など、スリラー小説と言うよりは冒険小説のような展開もありつつスケールはどんどんと大きくなるにも関わらず、登場人物はどんどんと世界が狭くなり、身近な人ばかりになってくる。

脱獄シーンにはびっくりだ。

プフェファコーンは脱獄した。

だけ。
大胆すぎる。自由すぎる。

ラストはいきなりファンタジー的というか村上春樹的というか。ここでもとても自由すぎるほどの自由さで物語は終わる。

あとがきを見ると本書「駄作」のテーマは「機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)」とのことで、つまりは「ご都合主義」ということだ。
そう考えるとシンプルすぎる脱獄シーンや、身近な人が鍵を握りすぎな展開もすべてフィクションとしての「ご都合主義」であり、メタ的な視点で書かれたものだとわかる。
個人的にそういう視点の小説は好きな方だけど、それを物語の中でもっと落とし込んでくれるとよかったな。

2019年 年間ベスト

  1. 平山夢明「ダイナー」
  2. 辻村深月「小説 映画ドラえもん のび太の月面探査記」
  3. 紗倉まな「最低。」
  4. 井上真偽「聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた」
  5. 綿矢りさ「憤死」
  6. 周木律「眼球堂の殺人」
  7. 今村昌弘「屍人荘の殺人」
  8. 市川憂人「ジェリーフィッシュは凍らない」
  9. 宮下奈都「たった、それだけ」
  10. 小林泰三「アリス殺し」
  11. 古処誠二「アンノウン」
  12. 江戸川乱歩「パノラマ島奇談」
  13. 壁井ユカコ「サマーサイダー」
  14. 詠坂雄二「インサート・コイン(ズ) 」
  15. 高山一実「トラペジウム」
  16. 辻村深月「きのうの影踏み」
  17. 朱川湊人「都市伝説セピア」
  18. 桜庭一樹「少女七竈と七人の可愛そうな大人」
  19. 高橋由太「紅き虚空の下で」
  20. 美輪和音「強欲な羊」
  21. 瀬尾まいこ「戸村飯店 青春100連発」
  22. 金原ひとみ「星へ落ちる」
  23. 豊島ミホ「夏が僕を抱く」
  24. 降田天「彼女はもどらない」
  25. よしもとばなな「ハゴロモ」
  26. 河野裕「いなくなれ、群青」
  27. 神宮司いずみ「校舎五階の天才たち」
  28. サキ「サキ短編集」
  29. 中町信「天啓の殺意」
  30. 三浦しをん「小暮荘物語」
  31. 柾木政宗「朝比奈うさぎの謎解き錬愛術」
  32. 彩坂美月「少女は夏に閉ざされる」
  33. 東野圭吾「赤い指」
  34. 小林泰三「世界城」
  35. 湊かなえ「リバース」
  36. 西澤保彦「七回死んだ男」
  37. 麻耶雄嵩「貴族探偵対女探偵」
  38. 橋本紡「彩乃ちゃんのお告げ」
  39. 早坂吝「探偵AIのリアル・ディープラーニング」
  40. 歌野晶午「正月十一日、鏡殺し」
  41. 西本秋「闇は僕らをつないでいる」
  42. 根本聡一郎「プロパガンダゲーム」
  43. 雫井脩介「犯罪小説家」
  44. はやみねかおる「そして5人がいなくなる」
  45. 下村敦史「真実の檻」
  46. 河合莞爾「デッドマン」
  47. 蒼井上鷹「出られない五人」
  48. 笹沢佐保「どんでん返し」
  49. 貫井徳郎「ドミノ倒し」
  50. 村崎友「夕暮れ密室」
  51. 澁澤龍彦「秘密結社の手帖」
  52. 北森鴻「共犯マジック」
  53. はやみねかおる「亡霊は夜歩く」
  54. ジェシー・ケラーマン「駄作」
  55. 大山誠一郎「密室蒐集家」
  56. 深木章子「敗者の告白」
  57. 清涼院流水「全日本じゃんけんトーナメント」
  58. 日高由香「ゴメンナサイ」
  59. 青柳碧人「猫河原家の人びと 一家全員、名探偵」
  60. 太田忠司「僕の殺人」
  61. 悠木シュン「スマート泥棒」
  62. 小山田浩子「穴」
  63. 長崎尚志「闇の伴走者 醍醐真司の博覧推理ファイル」
  64. 獅子文六「ちんちん電車」
  65. 堀内公太郎「スクールカースト殺人同窓会」
  66. 島田荘司「御手洗潔の挨拶」
  67. 堀内公太郎「スクールカースト殺人教室」
  68. 菅原和也「あなたは嘘を見抜けない」
  69. 松下麻理緒「誤算」
  70. 小林由香「ジャッジメント」
  71. 小杉健太郎「神の子(イエス・キリスト)の密室」
  72. 美輪和音「8番目のマリア」
  73. 大石圭「60秒の煉獄」
  74. 小林聡美「読まされ図書室」
  75. 藤岡真「ゲッベルスの贈り物」
  76. 矢部嵩「紗央里ちゃんの家」
  77. 浅暮三文「困った死体」
  78. おかもと(仮)「空想少女は悶絶中」