小山田浩子「穴」

第150回芥川賞受賞作の本書「穴」。
小山田浩子の作品も初読み。
とても現実感が薄く、どこかコミカルでどこか不気味な小説だった。

あらすじ

仕事を辞め、夫の田舎に移り住んだ私は、暑い夏の日、見たこともない黒い獣を追って、土手にあいた胸の深さの穴に落ちた。甘いお香の匂いが漂う世羅さん、庭の水撒きに励む寡黙な義祖父に、義兄を名乗る知らない男。出会う人々もどこか奇妙で、見慣れた日常は静かに異界の色を帯びる。芥川賞受賞の表題作に、農村の古民家で新生活を始めた友人夫婦との不思議な時を描く二編を収録。
引用:楽天ブックス

感想

作中で登場する『穴』が何を象徴しているのか、『獣』が何を象徴しているのか、『義兄』が何を象徴しているのか、どれもわからない。
と、どれも分からないながらも話の筋はしっかりとしていて、不条理なだけでなくキャラクターもしっかりしていて、ドラマもきちんとある。
文章もとても読みやすく、情景や場面はすんなりと浮かんでくるのに、その心に浮かんだ光景をどう消化すればいいのか、どう受け入れればいいのかがわからない。
主人公のあさひは、しっかりとしている感覚の持ち主で、主人公の気がふれたせいでこんな世界になっているわけではなさそうだ。

血がつながっていないの義祖母の遺影と姑の顔がそっくりだということと、

家に帰り、試しに制服を着て鏡の前に立ってみると、私の顔は既にどこか姑に似ていた。

という最後の一文から、何か空恐ろしいものを感じる。
それはきっと『嫁』という存在の不可思議さ。
血がつながっていないのに、家族として放り込まれる異質なものとして存在する不可思議さ。

もう一つの短編「ゆきの宿」も不思議な浮遊感のある小説だった。

自分の存在が少し不安になってしまう。
読みやすく好きなほうではあるけど、なんか疲れてしまう。
小山田浩子の作品を続けて読むのはちょっと大変そうだけど、他のも読んでみたい。

2019年 年間ベスト

  1. 平山夢明「ダイナー」
  2. 辻村深月「小説 映画ドラえもん のび太の月面探査記」
  3. 紗倉まな「最低。」
  4. 井上真偽「聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた」
  5. 綿矢りさ「憤死」
  6. 周木律「眼球堂の殺人」
  7. 今村昌弘「屍人荘の殺人」
  8. 市川憂人「ジェリーフィッシュは凍らない」
  9. 豊島ミホ「底辺女子高生」
  10. 宮下奈都「たった、それだけ」
  11. 彩瀬まる「神様のケーキを頬ばるまで」
  12. 小林泰三「アリス殺し」
  13. 古処誠二「アンノウン」
  14. 江戸川乱歩「パノラマ島奇談」
  15. 壁井ユカコ「サマーサイダー」
  16. 詠坂雄二「インサート・コイン(ズ) 」
  17. 高山一実「トラペジウム」
  18. 月原渉「首無館の殺人」
  19. 辻村深月「きのうの影踏み」
  20. 朱川湊人「都市伝説セピア」
  21. 桜庭一樹「少女七竈と七人の可愛そうな大人」
  22. 高橋由太「紅き虚空の下で」
  23. 美輪和音「強欲な羊」
  24. 瀬尾まいこ「戸村飯店 青春100連発」
  25. 金原ひとみ「星へ落ちる」
  26. 豊島ミホ「夏が僕を抱く」
  27. 北山猛邦「猫柳十一弦の後悔 不可能犯罪定数」
  28. 降田天「彼女はもどらない」
  29. よしもとばなな「ハゴロモ」
  30. 河野裕「いなくなれ、群青」
  31. アンソニー・ホロヴィッツ「カササギ殺人事件」
  32. 神宮司いずみ「校舎五階の天才たち」
  33. サキ「サキ短編集」
  34. 中町信「天啓の殺意」
  35. 三浦しをん「小暮荘物語」
  36. 柾木政宗「朝比奈うさぎの謎解き錬愛術」
  37. 彩坂美月「少女は夏に閉ざされる」
  38. 東野圭吾「赤い指」
  39. 小林泰三「世界城」
  40. 湊かなえ「リバース」
  41. 西澤保彦「七回死んだ男」
  42. 麻耶雄嵩「貴族探偵対女探偵」
  43. 橋本紡「彩乃ちゃんのお告げ」
  44. 豊島ミホ「大きらいなやつがいる君のためのリベンジマニュアル」
  45. 清涼院流水「ジョーカー 」
  46. 清涼院流水「コズミック 」
  47. 早坂吝「探偵AIのリアル・ディープラーニング」
  48. 歌野晶午「正月十一日、鏡殺し」
  49. 西本秋「闇は僕らをつないでいる」
  50. 根本聡一郎「プロパガンダゲーム」
  51. 雫井脩介「犯罪小説家」
  52. はやみねかおる「そして5人がいなくなる」
  53. 下村敦史「真実の檻」
  54. 河合莞爾「デッドマン」
  55. 蒼井上鷹「出られない五人」
  56. 笹沢佐保「どんでん返し」
  57. 貫井徳郎「ドミノ倒し」
  58. 村崎友「夕暮れ密室」
  59. 澁澤龍彦「秘密結社の手帖」
  60. 北森鴻「共犯マジック」
  61. はやみねかおる「亡霊は夜歩く」
  62. ジェシー・ケラーマン「駄作」
  63. 大山誠一郎「密室蒐集家」
  64. 深木章子「敗者の告白」
  65. 清涼院流水「全日本じゃんけんトーナメント」
  66. 日高由香「ゴメンナサイ」
  67. 青柳碧人「猫河原家の人びと 一家全員、名探偵」
  68. 太田忠司「僕の殺人」
  69. 悠木シュン「スマート泥棒」
  70. 小山田浩子「穴」
  71. 長崎尚志「闇の伴走者 醍醐真司の博覧推理ファイル」
  72. 獅子文六「ちんちん電車」
  73. 堀内公太郎「スクールカースト殺人同窓会」
  74. 島田荘司「御手洗潔の挨拶」
  75. 堀内公太郎「スクールカースト殺人教室」
  76. 菅原和也「あなたは嘘を見抜けない」
  77. 松下麻理緒「誤算」
  78. 小林由香「ジャッジメント」
  79. 朝倉宏景「白球アフロ」
  80. 小杉健太郎「神の子(イエス・キリスト)の密室」
  81. 美輪和音「8番目のマリア」
  82. 大石圭「60秒の煉獄」
  83. 小林聡美「読まされ図書室」
  84. 平川陽一「山と村の怖い話」
  85. 藤岡真「ゲッベルスの贈り物」
  86. 矢部嵩「紗央里ちゃんの家」
  87. 浅暮三文「困った死体」
  88. おかもと(仮)「空想少女は悶絶中」