第150回芥川賞受賞作の本書「穴」。
小山田浩子の作品も初読み。
とても現実感が薄く、どこかコミカルでどこか不気味な小説だった。
仕事を辞め、夫の田舎に移り住んだ私は、暑い夏の日、見たこともない黒い獣を追って、土手にあいた胸の深さの穴に落ちた。甘いお香の匂いが漂う世羅さん、庭の水撒きに励む寡黙な義祖父に、義兄を名乗る知らない男。出会う人々もどこか奇妙で、見慣れた日常は静かに異界の色を帯びる。芥川賞受賞の表題作に、農村の古民家で新生活を始めた友人夫婦との不思議な時を描く二編を収録。
引用:楽天ブックス
作中で登場する『穴』が何を象徴しているのか、『獣』が何を象徴しているのか、『義兄』が何を象徴しているのか、どれもわからない。
と、どれも分からないながらも話の筋はしっかりとしていて、不条理なだけでなくキャラクターもしっかりしていて、ドラマもきちんとある。
文章もとても読みやすく、情景や場面はすんなりと浮かんでくるのに、その心に浮かんだ光景をどう消化すればいいのか、どう受け入れればいいのかがわからない。
主人公のあさひは、しっかりとしている感覚の持ち主で、主人公の気がふれたせいでこんな世界になっているわけではなさそうだ。
血がつながっていないの義祖母の遺影と姑の顔がそっくりだということと、
家に帰り、試しに制服を着て鏡の前に立ってみると、私の顔は既にどこか姑に似ていた。
という最後の一文から、何か空恐ろしいものを感じる。
それはきっと『嫁』という存在の不可思議さ。
血がつながっていないのに、家族として放り込まれる異質なものとして存在する不可思議さ。
もう一つの短編「ゆきの宿」も不思議な浮遊感のある小説だった。
自分の存在が少し不安になってしまう。
読みやすく好きなほうではあるけど、なんか疲れてしまう。
小山田浩子の作品を続けて読むのはちょっと大変そうだけど、他のも読んでみたい。