壁井ユカコ初読み。
タイトルや表紙からはすごく青春を感じる。
読み始めてみるとすぐにただの青春小説ではない空気感に包まれる。
と思ったらあらすじにも「青春ホラー」って書かれてるんだね。
納得。
幼馴染みの倉田ミズ、三浦誉、恵悠は廃校になった中学の最後の卒業生。揺らぐ三角関係の中心には、去年の夏休みに変死体で発見された担任教師をめぐる秘密があった。夏が再び訪れ、廃校舎に隠した罪の記憶が三人を追いつめてゆく。ほの暗い恐怖を漂わせながら、少年少女の切ない関係を瑞々しく描く傑作青春小説。
引用:楽天ブックス
序盤では倉田、三浦、恵の3人の距離感や3人の過去、そして現在の”夏”を描くことに注力していて、どこか不穏な空気が流れているものの、青春小説らしい世界観。
ここらへんの雰囲気から爽やかなだけの青春小説でないことは勘づけるんだけど、まさか後半ここまでの急展開が待っているとは。
ホラーだったり恋愛だったりサスペンスだったりSF要素だったりをラスト間際になって急に押し込めてくる。
「急だな」とは思うけど、フロムダスクティルドーンを見たときの感覚に近くて、これはこれで気持ちがいい読書体験。
この急な展開は、現実世界での話なのか、それとも何かのメタファーなのかそれとも、もしくはどこかファンタジーやSFとしての世界線なのか。
この境界線は最後まで曖昧な感じがしたままで、その宙ぶらりんな感じがとても独特で心地よい。
誰もが納得するような結末や結論を用意しなくても物語は十分に面白く成立する。
この急な感じは基本的には楽しかったんだけど、一点気になってしまったのが車の中での倉田と三浦のイチャイチャ。なんで恵は急に静かになったのか、がわからなくて読み返してしまったし、そもそもこういう描写はここまで必要だったのだろうか?
ごった煮のような要素がてんこ盛りになるので、そこに注目しちゃうけど、徹頭徹尾、三角関係+2人の話だよね、これ。
倉田、三浦、恵の三角関係に佐野、千比呂の2人。五角形というにはいびつすぎる関係性。
それが恋愛だけではなく、それぞれのコンプレックスやら憎しみやら混ざっていて独自の世界観を作っている。
ここら辺の描き方がとても上手で、のめり込めた。
以前友達に「男はキャラに萌えるけど、女は関係性に萌える」って名言をいただいたことを思い出した。
なるほど、女性作家らしい切り口だ。
ラスト近辺の蝉の描写は想像してしまってちょっと気持ち悪くなってしまうほどの筆力。
好きだな、壁井ユカコ。