大好きな辻村深月がドラえもんを書く。
そりゃ、興味もすごいし期待もすごい。
映画が先か小説が先か、悩んだあげくに映画を先に見た。
久しぶりの映画館だったし、もっともっと久しぶりのドラえもんだったんだけど、とてもいい映画だった。
小さい頃、別にドラえもん好きではなかったし、もしかしたら初めて映画館でドラえもんを見たかもしれない。そんなことないかもしれない。
本書のタイトルは「小説 映画ドラえもん のび太の月面探査記」であって「小説ドラえもん のび太の月面探査記」では無い。
そのタイトルが示す通り、これは原作小説では無い。
インタビューでも語られている通り、辻村深月はまず脚本を書き進めている段階で最初は小説化するつもりはなかった。
それでも小説化することに決め、脚本から映画スタッフが映画を作っていくように、脚本から小説を書いたもの。
だからこそ「映画ドラえもん のび太の月面探査記」はちゃんと映画になっていたし、「小説 映画ドラえもん のび太の月面探査記」では小説向きではない場面もしっかりと描かれている。
ハードカバーの装丁が最高に良き。
シックで豪華な表紙をめくると思わず微笑んでしまう仕掛けもあって。
ハードカバーってやっぱりいいなぁ。
積ん読すごいし、持ち運びのこと考えるとハードカバーってあんまり買わないようにしていたんだけど、最近そのハードルが下がってしまっている。
節約しなくちゃ……
月面探査機が捉えた白い影が大ニュースに。
のび太はそれを「月のウサギだ! 」と主張するが、みんなから笑われてしまう…。
そこでドラえもんのひみつ道具〈異説クラブメンバーズバッジ〉を使って月の裏側にウサギ王国を作ることに。
そんなある日、のび太のクラスに、なぞの転校生がやってきた。
引用:楽天ブックス
基本的には原作(映画)にとても忠実な小説になっている。
ドラえもんを愛している辻村深月だからこそ書けた愛に溢れた小説。
本書のテーマは「想像力」。
冒頭の「月にウサギがいる」と断言するのび太はもちろん、それを笑ったクラスのみんなも、「エクトプラズム」や「宇宙人」などなど、それぞれの想像力を発揮している。
ルカたちの両親が「準備していた」のも想像力があったからこそだし、悪役であるディアボロすら「想像力が破壊を生み出す」と言っている。
「想像力」は良くも悪くも使えるということを言ってしまう残酷さ・公平さもとても辻村深月らしい。
そして、その想像力の持つ力を「異説クラブメンバーバッジ」というひみつ道具に見事に落とし込んで、ドラえもんという舞台だからこその物語になっている。
映画ではディアボロとの闘いが終わるとそのままルカ達との別れになるが、小説オリジナルの展開として地球に戻りルカを交えてかけっこをする。
そのシーンがこれでもかってくらい泣けてくる。
あまりにいいシーンすぎる。
ディアボロという人工知能との未来的で複雑な対決を終えた後に、友達だけで”走るだけ”というとても原始的で直接的な対決。
競い合うことが悪いわけじゃなく。
勝つとか、負けるとかが悪いわけじゃなく。
どういう想像力をどこに持っておくのか。それが一番大事だ。
とても深いテーマで、すごい泣けた。
ドラえもんという舞台ながら、とても辻村深月らしさが多々つまった小説。
今回、小説で読んだときにルカのこのセリフがとても胸に刺さった。もう一度映画を見たいくらいだ。
「のび太のおやつと同じだね」
引用:「小説 映画ドラえもん のび太の月面探査記」
本当に素敵な装丁だし、本当に素敵な物語だし、宝物のような一冊になってしまった。