はやみねかおる「そして5人がいなくなる」

青い鳥文庫ということで児童文学である「そして5人がいなくなる 名探偵夢水清志郎事件ノート」。
タイトルからわかる通り、ミステリー(それも本格)ではありますが、さすがに子供向けではある。
それでも、率直な感想としてはすごくおもしろかった。
シリーズものなので、続けて2作目も読む。

とにかく読みやすい。
子供向けのものって、当然大人でも読みやすいものもあれば、大人には読みづらいものもある。
もちろん個人個人の相性の問題もあるんでしょうけど、その前段階で大人が読むには厳しいものも多々ある。
本書「そして5人がいなくなる」は恐らくほとんどの人にとって読みやすく、サクサク読める小説だろう。

本格ミステリーの体裁をとりつつ、人死にがないのも子供に目線を合わせてのことなんだろうか。
それとも、シリーズが進むにつれて殺人事件とかも出てくるのかな。そういう点も含めて楽しみだ。

あらすじ

夢水清志郎は名探偵。表札にも名刺にも、ちゃんとそう書いてある。だけど、ものわすれの名人で、自分がごはんを食べたかどうかさえわすれちゃう。おまけに、ものぐさでマイペース。こんな名(迷)探偵が、つぎつぎに子どもを消してしまう怪人「伯爵」事件に挑戦すれば、たちまち謎は解決……するわけはない。笑いがいっぱいの謎解きミステリー。
引用:Amazon「そして5人がいなくなる」

ネタバレありの感想

まず、第一部「名探偵登場」がとてもミステリー小説の導入として上手い。
語り手(ワトソン役)である亜衣の紹介をしつつ、隣に引っ越してきた奇人で名探偵の夢水清志郎の紹介。
亜衣が三つ子(亜衣・真衣・美衣)であるヒントは分かりやすく散りばめつつ、名探偵としての能力の見せ方があからさまにホームズのアレでいい。
古き良き時代の名探偵らしさ溢れる奇人ぷり、ルックス、などなど探偵好きとしてはテンションが上がる。

スポーツ万能な真衣、新聞を愛読し知識豊富な美衣という濃いめの妹たちで、長女の亜衣は本が好きという立ち位置もとても良き。
本が好きな子供が本が好きな女の子の視点で物語を読むことの臨場感や没入感というのをしっかりと意識しているんだろう。

第二部から本格的に物語が始まる。
「そして5人がいなくなる」というタイトルから、連続殺人を期待してしまうのは大人の良くないところ。
本書では殺人は起きない(過去に夢水が解決した事件では殺人もあったようだが)が出てくる謎はなかなかに魅力的。
宙づりの箱から消えた少女、ジェットコースターの途中でいなくなった少年、ミラーハウスで消えた少年、などなど5人の消失トリック。
ただの手品的だったり、ここ怪しいな、って点がそのままトリック部分だったりするものの、ヒントや伏線なんかはちゃんとちりばめていて解いたときの快感はちゃんとある。

伯爵の正体も、登場人物の少なさから割と序盤でわかってしまうものの、まさか双子とは。
ここはきれいに騙されてしまった。
双子トリックは、アンフェアという意見もあるかもしれないけど、夢水が言うように「小村英二郎」という名前から、そして何より読者へは、第一部での亜衣達の三つ子トリックというメタ的なヒントもあった。
この構造は面白い。まさか児童文学でメタミステリー的な要素まで入れてくるとは。

「子供向けと侮るなかれ」と言いたいんですけど、本書はあくまで子供向けに書かれたもので、子供向けということを意識し、ある程度侮った状態で読んだほうが楽しいと思う。
子供向きだからこその、作者はやみねかおるの優しさやミステリ愛なんかが感じられてとても良き読書体験。

伯爵が子供たちのことを思ってした誘拐事件だったとしても、警部が気づいていてその犯罪を見逃してしまうことなどは、リアリティが無いが、それもフィクションであることの長所だ。
児童文学としては大正解。

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