乃木坂46の高山一実さんが書いた処女小説。
現役アイドルが書いたアイドルの小説ということで注目されて、結構売れてるようで、出版業界にとっていいことだ。
紗倉まなの「最低。」でも書いたけど、自分の居場所のことを書いてくれるのはすごくすき。
その人の人間性がより出てくると思うのよね。
乃木坂46から初の小説家デビュー!
現役トップアイドルが、アイドルを目指すある女の子の10年間を描いた感動の青春小説!高校1年生の東ゆうは「絶対にアイドルになる」ため、己に4箇条を課して高校生活を送っていた。
「SNSはやらない」「彼氏は作らない」「学校では目立たない」「東西南北の美少女を仲間にする」……?
努力の末、ついに東西南北の“輝く星たち”を仲間にした東が、高校生活をかけて追いかけた夢の結末とは!?
引用:楽天ブックス
評価が難しい。
もともと僕は高山一実さん、結構好きなんですよ。
ただ単純にかわいいな、ってのと、いい人そうだな、ってので。
ちなみに、好きになったきっかけはバナナマンから。
小説としては、筆力的な点では、甘い部分は多い。
キャラクターの行動は急な部分はあるし、急に台詞ばかりになり状況が分かりづらい場面もある。
展開が急すぎる部分もあるし、小説としての見せ場もどこかわかりづらい(必要かどうかは別問題として)。
山登りのシーンが小説として一つの山場になるのかと思いきや、その後の工業祭が主のエピソードだった。
それであれば、工業祭にさっちゃんを登場させないか、ラストまでさっちゃんを活かすことは必要だったのでは。
アイドルになってからのシーンがあまりに少なく、そこでの葛藤やすれ違いももっと描いてくれるとよかった。
作者が乃木坂46の高山一実さんでなければ話題にならなかったであろうし、そもそも出版できなかったかもしれない。
と、厳しい意見ばかりになってしまうけど、僕は本書「トラペジウム」を胸をはって「大好きな小説だ」と言える。
読者に伝わってしまっていいのかどうかは人それぞれの好き嫌いがあるんだろうけど、高山一実が試行錯誤しながら、もがき苦しみながら書いたんだろうということはすごく伝わってくる。
一つ一つの表現を少しでも面白いものに、独自性のあるものにしようとしていることがちゃんと伝わってくる。
そして、それが上手くいって、とても面白い表現の部分やセリフも多くある。
そしてそれこそが文学だと。僕は、思う。
身を削って、心をすり減らして書いたものこそが、文学だと。僕は、思う。
僕は本書「トラペジウム」にすごく強い文学を感じた。
その体験は割と唯一無二なものだ。
”アイドル”という言葉の意味を”偶像”と捉えると、こんなにも高山一実の苦労や人間性が見えてしまうのは、アイドルを職業とする彼女にとってはマイナスに働いてしまうこともあるんじゃないかな、と思う。
本来アイドルが描くのはフィクションのようなエッセイであるべきだ。
これだけ身を削って書いた小説だ。
彼女にも実際、”東”のような身勝手でずる賢い部分があるんだろう。想像してしまう。
それは勝手な想像ではあるけれど、大きく間違った想像とは思えないし、そんな想像をされても仕方のない、小説を書いたのは彼女本人だ。
だからこそ僕は「トラペジウム」が好きだし、「高山一実さん」もより好きになってしまった。
そして、作家「高山一実」としての作品をまた読みたい。
この視点を持ったまま、また試行錯誤しながら、もがき苦しみながら作品を作り上げてほしい。