綿矢りさ「憤死」

エモの権化、綿矢りさの短編集。
最近はエモいという言葉があるからいいけど、エモいという言葉がなかった頃は、綿矢りさを読んだときに生まれてくる感情をどう表現したらいいのか悩んだことでしょう。
実際僕も「インストール」や「蹴りたい背中」を読んだ時は、発散仕切れない何かを抱えることになっていた。

あらすじ

自殺未遂をしたと噂される、小中学校時代の女友達。興味本位で病室を訪れた私は、彼女が自宅のバルコニーから飛び降りた驚きの真相を聞く…表題作のほか、「おとな」「トイレの懺悔室」「人生ゲーム」を収めた、綿矢りさによる世にも奇妙な物語。
引用:Amazon「憤死」

ネタバレありの感想

ポップな表紙に不穏なタイトル。
すでにエモい。

おとな

テンション上がって読み始めると、最初の短編「こども」でガツンと頭を殴られる。
しかも大きな鈍器で。
自分の最も古い現実の記憶と、最も古い夢の記憶を思い出すだけの話ではあるのだが、不穏で嫌悪感の強い夢の記憶が実は現実のものだった、というシンプルなものではある。
だけどそこに、主人公の”私”が”りさ”という名前の作家であることで、一気に怖くなる。

トイレの懺悔室

「おとな」の次にこの話を持ってこられたらそりゃ、困惑する。
どう受け止めたらいいんだろうと、悩んでいるうちに、グイグイと読み進めてしまうのは綿矢りさの筆力。
他の少年の懺悔の内容が最後まで明かされない感じや、”おれ”がどうなるのか、など不穏なものを残したまま終わる。

憤死

表題作。
「おとな」「トイレの懺悔室」と続いて、「憤死」なんてタイトルの話、ということで、これはある種のホラー小説なんだ、と思って読むと、もちろん怖い部分や不穏な部分は多々あるものの、どこか爽やかさも感じる小説。
この、どっちにもつかず、揺れ動く感じこそが文学だと思う。
太宰治の「人間失格」だって、暗いだけの物語ではなくて、美しい部分や可笑しい部分がある。
物語は主人公の”私”から見た”佳穂”がどういう人間か、というだけのはずなのに、途中で挿入される”私”のホテルのメイドのバイトをしていたエピソードがとても象徴的で強いインパクトを残す。
客が見ている煌びやかな世界と裏側の過酷さや汚れている感じと、外面を綺麗に見せようとしている”佳穂”の関係がとても良き。
それにしても、「文学界のアイドル」とまで言われた綿矢りさがこんな視点すらも持っていることに嫉妬する。

人生ゲーム

あらすじの「綿矢りさによる世にも奇妙な物語」とはまさにこれ。
急に綺麗なストーリーテラーっぷりを発揮した綿矢りさ。
この一冊の中で浮いているような感じもあるが、最後にわかりやすくフィクションのエンタメ作品を持ってきてくれることで、現実世界にうまく帰ってこれた気がする。
もちろん、ありがちなストーリーながらも描写や表現なんかはさすが。
ついついニヤリとしてしまうようなオチもこれまでの3つの短編との対比のおかげで好印象。

まとめ

綿矢りささすがだ。
どれも「怖い」話だったものの、落ち着いて考え直すと、とてもバラエティに富んでいる。
短編集であることの利点をとても贅沢に味わえる一冊だ。
とても良き。

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