素晴らしくよかった。
本職が作家じゃない人が書いたという色眼鏡を外してみても素晴らしかった。
専業作家が書いたものと遜色ないというか、堂々と素晴らしく面白くい小説だった。
いい評判はもともと聞いていたので、ハードルを下げていたつもりはなかったんだけど、期待以上に楽しめた。
紗倉まなといい、又吉直樹といい、専業作家じゃない人でもちゃんと面白い小説があるんだな。
幸せなことだ。
元AV女優の母親を憎む少女。家族に内緒で活動を続ける人気AV女優。男に誘われ上京したススキノの女。夫が所持するAVを見て応募した妻――。四人の女優をめぐる連作短編小説。
引用:楽天ブックス
紗倉まながAV業界を舞台に書いている、ということは知っていたので、勝手に自伝的なものか業界暴露的なお仕事小説かと思っていた。
違った。文学だった。
あとがきにも自身の身バレについて書かれているし、きっと自伝的部分もあるだろう。
でも、本書「最低。」が日記を物語化しただけのものではなく、ちゃんと小説に、文学になっているのは、自分の人生の書き方がうまいんだ。
「こんなことがありました」ではなく、「このキャラクターにとって自分の人生を重ねるとこういうこと」だ、という感覚というか、もちろんフィクションなんだけど、嘘が無い。
ここは賛否分かれるところかと思いますが、僕は紗倉まなの句読点がすごくすごく好きだ。
一歩間違えると、読みづらかったり、不安感を覚えてしまうような、大胆な句読点の使い方をしている。
きっと読みづらい人や気持ち悪さを感じてしまう人もいるだろう。
文章を教科書通りに書くのではなく、きっと自分の気持ちが一番込められるテンポで書いているんだろう。
そんな彼女の言葉のテンポがストンと気持ちよく入ってきた。
タレントですでに有名な人が書いた小説(特に文学)はどうやっても色眼鏡で見られる。
それは文学が作家の人格や人生を切り売りするものだから、テレビや他メディアですでに人格が少しでも見ているような人はしょうがない。
その色眼鏡がいい方向に働くこともあれば悪い方向に働くこともある。
僕が本書を読むときはどうだったんだろう。
とにかく、想像以上に面白かったし、まさか泣くとは思わなかった。
又吉直樹の「火花」もそうでしたが、自分の今の居場所(AV業界)のことを書いたのがいい。こういう所でリアリティが出ているんだろうな。
専業作家が取材や想像からその舞台(本書で紗倉まなが描いたAV業界や、又吉直樹が描いたお笑い業界)の小説を書くことはもちろんできるでしょう。
それでもやはり、作家(人物)を通して見ることができる点で有利に働いているのは間違いない。
本書「最低。」はそれぞれ「綾乃」「桃子」「美穂」「あやこ」の女性4人を中心にもってきた4つの短編集。
基本的に3人称視点なんですけど、2章の「桃子」のみ1人称視点で、しかも視点人物は石村という男性。
4章の「あやこ」本人はAV女優ではなく、かつてAV女優であった母親に育てられた娘の話。
どれもAV業界を軸にしているにも関わらず、バラエティに富んだ短編集。
この構成も上手いよなぁ。
正直ファンになってしまった。
正直かわいいし。
しかもめちゃくちゃかわいいし。
文章うまいし頭もよさそうだし、エッセイも読みたい。
紗倉まなさんの作品色々と集めたくなってしまった。