獅子文六の随筆集。
エッセイ集と呼ぶよりは随筆集の方が雰囲気合ってる。
都電が廃止されるとの噂を聞き、獅子文六が週刊朝日に連載した彼の愛した都電や東京のアレコレ。
それにしてもちくま文庫ってやっぱりいい。表紙素敵だ。
品川を出発して、新橋、銀座、日本橋、上野、そして浅草へ―。獅子文六は愛してやまなかった都電に乗りこみ、街々をめぐる。車窓を流れるなつかしの風景、老車掌のたたずまいに、うまいもの。昭和のベストセラー作家お気に入りの都電と東京の街がよみがえる、名エッセイにして最高の東京案内。
引用:楽天ブックス
こうやって都電や東京に対して思うことを書き連ねるだけでこんなにも読みごたえのある文章を書けるのはさすが獅子文六。
今はもう消えてしまった景色が書かれている。
食べ物や風俗に関わる証言はとても興味深く、こういう本が現代も読まれていることはとても有意義なことだろう。
獅子文六自身も自分の随筆がこんなに長い時代読まれるとは思っていなかったのではなかろうか。
消えていく都電を作者から見た色鮮やかさで残してくれている。
都電に対する愛が感じられて心が温かくなってしまう。
思わずにやけてしまったり、食事の描写がとてもおいしそうだったり、獅子文六のユーモア・文章のうまさがたっぷりと詰まった一冊。
そしてそれが、とても楽しい一冊。
都電を貸切って王の気分を味わう件や天ぷら屋で煙草をもらう件とか最高。
僕の知らない東京なんだけど、確かに現代の東京に続いてる何かは感じる。
歴史的な証言としての価値とか置いておいて、やっぱり文章が心地良い。テンポ感だったり、思想がしっかりとあるのに嫌味になっていなかったり、どこか可笑しい雰囲気はずうっと保たれている。
気楽でスっとする読書体験ができる。
獅子文六はこれで「コーヒーと恋愛」に続いてまだ2冊目なんだけど、他のも読まなきゃな。
良き良き。