若竹七海が学生時代に体験した不思議な出来事に対し、他のミステリー作家や一般公募での推理を集めたアンソロジー。
アンソロジーということだけど、一般公募も多く豪華なメンツとは言いづらい。
それでも、デビュー前の倉知淳の作品もあるし、何より一つの謎に対したくさんの人の推理を見ることが出来るという、とても贅沢な一冊。
店に入るなり男は一散にレジを目指し、五十円玉二十枚を千円札に両替してくれと言う。渡された札を奪うように受け取ると慌てて出て行く。本屋のアルバイト嬢に忘られぬ印象を残した、土曜日の珍客。爾来、彼女が友人知人にこの謎めいた両替男の話題を提供するたび談論風発、百家争鳴すれど決定打は出ないまま。…という紆余曲折を経て成立した、世にも珍しい競作アンソロジー。
引用:楽天ブックス
1.なぜ、男には50円玉が20枚たまるのか。
2.なぜ、毎週土曜日なのか。
3.全体として、男の奇妙な行動にはどんな意味があるのか。
整理するとこんな感じみたい。
試みが面白い。
一つの謎に対し、プロ・アマの作家がその解答を短編として提示するという。
時代を感じる試みでいいな。
まず言ってしまうと、まともな解答は無し。
そこは残念ですが、それでも一つの謎からたくさんの物語が生まれる様はとても楽しい。
いきなり卑怯と言われてもしょうがない楽屋落ちだし、肝心の謎からは綺麗に逃げてしまっている感じで、あくまでこのテーマを元に短編を作った、という感じ。
デビュー前の倉知淳の短編。
これがさすが。
解決としては本書で一番納得できるんだけど、それを作中で冗談だったと言ってしまっているのがまたかっこいい。
これ、些細な点は目をつぶって解決したってことにしてもよかったのに。
これが最優秀賞じゃないのが不思議。
ミステリーとしても小説としてもこれが一番だと思うけどな。
選考会の様子でも書かれているけど、骨太な雰囲気なのに一点リアリティがなくなっちゃう部分があってもったいないけど、それでも五十円玉の使い方や、最後の一文の締め方なんかとてもいい。
これもいい。
若竹七海にやたら媚び売ってる感じは否めないものの、若竹七海が綺麗だからこそ、このサスペンスな落ちが輝いてる。
五十円玉の方の解決は微妙だけど、もう一個のなんでエレベーターが降りてくるのが遅かったのか。こっちの謎の解決は綺麗。いや、汚い。
真相の中身というよりも謎が解かれていく過程が気持ちよくてこれがプロの技なのか。
意外。
これがよかった。
2ページで、謎の解決も楽屋落ちも、4コマ漫画としての面白さも入れ込んでいてとても込み入った構造になっているんだけど、そんなことを感じさせない勢いがある。
僕も読了後ずっといい解決を考えているんだけどこれが全く浮かばない。
凶器にしました、ってのが無いのはやはり安直すぎるからなのかしらん。