中村文則は「何もかも憂鬱な夜に」以来の2冊目。
やっぱり文学者だ。
そしてやっぱり好きだ。追いかけよう。
本書も最高に良き。
「遮光」は「銃」でデビューした中村文則の2作目らしいんだけど、発表順に読んでくればよかったかな、と思った。シリーズものじゃないかぎりあまり刊行順とか気にしないほうなんだけど、これはそう思った。
なぜなら「遮光」は瑞々しい文学だったから。
もちろん、あらすじから感じる、いやあらすじ以上の陰鬱とした小説なんだけど、中村文則の持つ精神性や想像力、これまでの経験なんかが、できる限りそのまま、新鮮に取り込まれている。
「何もかも憂鬱な夜に」を読んだときの僕はもうちょっとエンターテイメントを感じていた。
小説を次々に発表するにつれ、中村文則がどう変わって行っているのか見るのも楽しいかもしれない。
変わらない部分ももちろんあって、それが自然と映像が浮かぶ描写力。
本当に鮮やかに、場面が浮かんで来る。
それもそのままが浮かんで来るというよりは、主人公の精神性も反映した、映画的な映像が浮かんで来る。
この描写力、筆力たるや。
最高に良き1冊。
恋人の美紀の事故死を周囲に隠しながら、彼女は今でも生きていると、その幸福を語り続ける男。彼の手元には、黒いビニールに包まれた謎の瓶があった──。それは純愛か、狂気か。喪失感と行き場のない怒りに覆われた青春を、悲しみに抵抗する「虚言癖」の青年のうちに描き、圧倒的な衝撃と賞賛を集めた野間文芸新人賞受賞作。若き芥川賞・大江健三郎賞受賞作家の初期決定的代表作。
引用:楽天ブックス
恋人の遺体から小指を盗み、ホルマリン漬けにし、その瓶を持ち歩く虚言癖を持った「私」が主人公。
これだけ聞くと狂気的な感じを受けるかもしれないが、本書を読んで受け取る印象はそんな簡単なものではない。
「私」から見た世界なのであたり前かもしれないが、「私」からは人間をすごく感じる。
それ以外の人間らしい登場人物の方がどこか、壁を感じる。
その壁はもちろん、「私」が作った壁なんだけど、それだけなら人間誰もが持つものである。
恋人の死を受け入れられず、週に優しい嘘(ホワイトライ)を吐き続けた心優しい青年の切ない物語にもできた設定を、ここまで陰鬱で衝動的に描き出せた中村文則のすごさたるや。
みんなちがって、みんないい
金子みすずのこの言葉も確かにそうではあるんだけど、「みんなちがって、みんなよくない」のもまた確かではある。
そんなことを思った。
この小説で救われる人、たくさんいるよ。
最高に良き。