表紙の素敵さやタイトルのかわいらしさからは想像がつかないほどの残酷な青春物語。
気軽に読めそうな、タイトルと表紙で実際サクサク読めるものの、受けるダメージは重め。
それが良き。
小学四年生、中学二年生、高校三年生の3章に別れて、結仁の不安定さを描いた本書。
瑞々しかった物語はだんだんと湿っぽく、生々しくなっていく。
とても良き。
「朝、黄色い車を三台見たから、今日はいいことがあるかもしれない」。魔女になりたい十歳の結仁は、葵と史人と毎日魔法の練習をしている。三人でいると一番元気なのに、なぜかクラスでは上手にしゃべることができない。さらにある日、七夕に書いた願い事を嘲られ孤立を深めていく…。繊細で透徹した視点で描く、揺れ動く少女の心と自立の物語。
引用:楽天ブックス
中二病なんていう言葉を使うまでもなく、人は皆「他の人間とは違う」と感じながら成長していく。
クラスメイトや家族とのズレや差異、それによって生じる違和感なんかが個人を形成していく。
小学四年生の結仁は「魔法」の存在を信じ、ホームレスを「魔法使い」と信じ、幼馴染の葵と史人と3人で「魔法使いクラブ」を結成する。
「魔法使いクラブ」で秘密を共有する葵、史人との距離感とそれ以外のクラスメイトとの距離感。
その距離感のズレと運の悪さのせいで、クラスから孤立してしまう結仁。
まるで冷たい刃物で刺されたような居心地の悪さと異物感のようなものを感じる。
中学二年生になっても葵や史人との交流は続いているものの、当たり前だけど葵も史人もそれぞれがそれぞれなりに成長している。
結仁はその2人からは出遅れてしまったような、それでいてそれを認められず他の人を見下したような視線で見る結仁。
葵が田邊先輩に対する「好き」という気持ちと、結仁が伊田くんに対する「好き」という気持ちを並べてほしくないと感じてしまっている奢り。
それも、プライドや焦りからくるもので、結仁が自身を守るための本能だったのだろう。
そんな友情が上手く続くわけもなく「魔法使いクラブ」は終わりを迎える。
そして高校三年生となった結仁。
家庭は壊れ、学校からも離れ、社会から孤立をしていた結仁は、もっと前から離れていた姉や兄とまるでやり直すような関係になる。
それは一度壊れたものも修復できるということに他ならないし、小説の最後まで元には戻らなかった「魔法使いクラブ」も何かきっかけがあれば元に戻れるんだろう。
小説の冒頭で『朝、黄色い車を見た。』と、ラッキーアイテムとしての黄色い車。
そして、ラストシーンで、結仁の目の前に止まったのは黄色い巨大なバス。
これからの結仁にとって、それはきっととても心強い風景だったんだろう。
美しいラストシーンだ。
成長することは残酷だし、とても優しい。
良き。