江南亜美子さんの解説にもありましたが、「劇作家の書いた小説」という冠はもう必要ない。
数ある小説の一作品としてとても輝いているし、抜きん出て面白い。
とてもよき。
北陸育ちの姉妹。長女は大学を出たもののバイト生活を送る、いわゆる「ワーキングプア」。そんな姉を反面教師にした次女は、高卒で信用金庫に就職。姉妹は母も交えた女三人でグアム旅行に出かけることになるが、長女の身勝手な行動のせいで、早くも旅は不隠なムードに…。時代の理不尽、血の繋がった女同士のうっとうしさを、シニカルな筆致で笑い飛ばす、奇妙で痛快なホームドラマ。
引用:楽天ブックス
「グ、ア、ム」というタイトルで161pと薄いにも関わらずグアムに到着するのが85p。
しかも
グアムは、
グアムは生憎の雨だった。
と。
最高だ。
僕は男だし、兄弟も兄がいるだけなので、「グ、ア、ム」で描かれている母、姉、妹という女性3人の関係性が本当にリアルなのかはわからない。
でも、僕にはとてもリアルに見える。
それは、女性3人の関係性ってことももちろんあるし、この3人の関係性がとてもリアル。
もちろん、それこそ劇作家の宿命としてエンターテイメント的に誇張されているであろう部分はあるものの、3人それぞれの思考の動き方などすごく生々しくて読んでいて笑いながら、見てはいけないところまで見てしまっているような罪悪感すら覚えてしまう。
そんな中、出てくる男、父、姉の彼氏、妹の彼氏の3人がどれもフィクション的で、それぞれのキャラクター(人間性)から見たキャラクター(偶像性)ってこんな感じなのかもしれない。
人間っぽいってなんだろう。
と、まぁ、割と難しいことを考えさせられてしまう部分もありつつ、小説の本筋としてはコメディ。
チェックイン前から、側から見るととてもくだらないことで揉める姉と妹と、その間でオロオロとする母。
そして、せっかくグアムに着いたと思ったら、雨。
3人の旅は大きなトラブルも無いのに、全然うまく行かない。
2泊3日の旅行の、2日目の夜。
チャモロヴィレッジで、関係性がようやく少しだけ変化する。
母は無理に仲良くして欲しいとは思っていないのにも関わらず、姉と妹は母のために旅行中を楽しそうにすごくことを約束。
そのこと自体はとても美しい関係性。僕もなんだかんだ「よかった」と思ってしまった。
それを見た母は薄気味悪さを感じつつも、姉妹のやりとりは嬉しく見ており、そこにいない父のことも思う。
家族が一つにまとまった。
このチャモロヴィレッジでの夜、チャモロの末裔たちのダンスを見ているシーンで終わってもよかった。
姉妹の関係性が良くなったのは旅の間だけなのかもしれないが、それでも小説の締め方としてはとても綺麗だ。
だが、3日目の朝はやってくる。帰国日。
奇跡的に晴れたものの、妹の急な生理によって結局海には入れず。
最後の最後までうまく行かない3人と思ったら、
昼寝している母と妹に隠れ、ホテルの時計を進めて、飛行機に乗り遅れた状況を作り出そうとする姉。
「嫌やわー、あっち帰るの」と言った母のためか、どうしても海に入りたかった自分自身のためか。
後者だといいな。
「ロスジェネ」で「ワーキングプア」であることをコンプレックスとした姉がそういった荷物を少しでも降ろして行こうとすることは、確実に成長だし、そうなってくれれば災難続きのこの旅にも意味が出てくる。