さすがの東野圭吾。
犯人が「探偵」を推理するっていう図式が素晴らしく面白い。
こんな風に少し外れた構造でもしっかりと読みやすく、骨太なミステリーを書けるのはさすが。
逸脱しすぎない物語で、緊張感もすごい。
よきよき。
ハウダニットで、ホワイダニットで、フーダニットでどんでん返しもあり。
ミステリーのいいところ盛りだくさんで楽しい。
「鳥人」として名を馳せ、日本ジャンプ界を担うエース・楡井が毒殺された。捜査が難航する中、警察に届いた一通の手紙。それは楡井のコーチ・峰岸が犯人であることを告げる「密告状」だった。警察に逮捕された峰岸は、留置場の中で推理する。「計画は完璧だった。警察は完全に欺いたつもりだったのに。俺を密告したのは誰なんだ?」警察の捜査と峰岸の推理が進むうちに、恐るべき「計画」の存在が浮かび上がる…。精緻極まる伏線、二転三転する物語。犯人が「密告者=探偵」を推理する、東野ミステリの傑作。
引用:楽天ブックス
峯岸がどうやって毒薬を飲ませたのか?というハウダニットであり、
峯岸はなぜ、楡井を殺したのか?というホワイダニットであり、
峯岸を警察に密告したのは誰なのか?というフーダニットでもある。
犯人側からの視点で「密告者=探偵」を推理する、という図式が中心にあり、自分のトリックの穴を探していき、ハウダニット部分や、ホワイダニット部分が少しづつ明らかになっていく。
物語の序盤からすでに面白いんだけど警察の捜査が進むにつれて、どんどんと杉江の周りが怪しくなっていき、緊張感が張り詰めて行く。
そのせいで夕子が真犯人という真相がそこまで衝撃的ではなかったものの、ドラマ性もありさすがの東野圭吾だな、と。
東野圭吾は謎解き部分だけでなく、ドラマ部分もやっぱり面白い。
能天気な楡井が、コーチの峯岸からの殺意に気付いてしまうシーン。
衝動的な夕子との対比が美しさすらある。
凡人は天才にはなれないのか?
そういった考えから生まれたのが「鳥人計画」で、違法では無い手段での科学的な練習方法によって、天才を作り上げていくこと自体はスポーツの世界ではきっと正しい、推奨されるべきことなんだろう。
杉江監督は卑劣だと思うし、「鳥人計画」は犠牲が大きすぎるために非難されてしまうが、それでも、スポーツにまっすぐ向き合った結果ではある。
今、スキージャンプで僕たちがイメージする飛び方である、スキー板を広げて滑空するボークレブの出現で物語は終わる。
努力の虚しさだったり、凝り固まった考え方の危険性だったり、科学の限界(科学を扱うのが人間であることでの限界)が見えてきてとても切ない。
だけど、切なさの中にも未来への、人間の進化への希望が見えてきてワクワクもする。