「イヤミス」と呼ばれるもの。
イヤな気持ちになる、読後感のよくない小説をさしてそう呼ぶんですけど、この作品については、そんなに嫌な気持ちにはならなかった。
もちろん、個人個人で感じ方は違うという当たり前なことは置いておいて、一種の爽快感さえあったのは確か。
いつみの死についての短編をサークルのメンバーがそれぞれ書き、朗読する。という設定で、それぞれの特徴なども出ているにも関わらず、散らかった印象にはならず、とても読みやすい文体をキープできているのはすごくよかった。
文学サークルのメンバー、ということで文章力が一定レベル以上のものでも不自然でない設定を作ったこと自体がうまいし、文学サークルに対する憧れなどをくすぐってきて、ワクワクして読めた。
今作で描かれる文学サークルはほとんどファンタジーのような印象も受けつつ、細かな描写が説得力も生んでいる。
さくさく読めて、どんでん返しも楽しめる。
なかなか、よき。
名門女子高で、最も美しくカリスマ性のある女生徒・いつみが死んだ。一週間後に集められたのは、いつみと親しかったはずの文学サークルのメンバー。ところが、彼女たちによる事件の証言は、思いがけない方向へ―。果たしていつみの死の真相とは?全ての予想を裏切る黒い結末まで、一気読み必至の衝撃作!
引用:楽天ブックス
いつみの死について、各メンバーからの視点で描かれる事件の推理というよりは、真相のようなもの。
それが、メンバー毎に全く違う真相に辿りつくことによって、読んでいる方としては不思議な気持ち良さを感じる。
それぞれの話が、ある程度面白いんですよね。
本音かどうかはおいておき、故人を敬いつつ、自分では無い誰かを貶めるために事実を湾曲し、自分の醜い部分を隠しつつ書いた小説。
文学と娯楽小説の違い。
色々な意見はあると思いますが、僕にとって「文学とは作家の人生を書いたもの」で「娯楽小説とは上手に嘘をついたもの」という側面はあると思っていて、そうすると、今作で文学サークルのメンバーである登場人物達が書いたものは、文学からは程遠いけど、上手に嘘をつこうと、しかもそれを文学と見せようとしている。
そのズレた感じが楽しい。
ミステリー的な部分で言うと、各メンバーのそれぞれの小説で大きな齟齬がいくつもあるって段階で、犯人は全員だろう、というところまでは想像がつく。
そして、闇鍋という舞台設定により、鍋に毒を入れている=真相に気づた小百合の復讐では?
と言うのも、あって真相はここら辺かな。と。
実際にはいつみの自殺、だったわけだけど、それは手段がズレただけで、この時点の犯人はメンバー全員ってことでいいと思う。
そこからもう一個、どんでん返し。
これは、予想がつくわけが無いし、ミステリーとして成り立ってはいない。
でも、このもう一個のどんでん返しがこの小説をある種爽快感のあるものにしていると思う。