竹宮ゆゆこは家族を書く。
ラノベ作家としての竹宮ゆゆこは「とらドラ!」しか知らないんだけど、その頃から家族を書いている。
家族になろうとする人間関係を書いている。
「砕け散るところを見せてあげる」や「知らない映画のサントラを聴く」もライトノベル感はありましたが、今作はだいぶラノベ感強め。
文春文庫から出ているというのが、途中にイラストが入らないのが不自然に感じるくらい。
それでもやはり、面白かった。
竹宮ゆゆこ、安心して読める作家の一人だ。
高校生の月岡瑛人は、進学校で学ぶ優等生で家族(居候含む)思い。友達とも仲良くやっているが、秘めた衝動をもっていた。その衝動を受け止めるサンドバッグになっていたくまのぬいぐるみを失った瑛人が半狂乱で探した末、かわりに出会ったのは半死状態の美女!?「孤独をこじらせた少年」は、居場所を見つけられるのか―。
引用:楽天ブックス
瑛人は自分が孤独だと思っている。
瑛人を囲む家族はとても、いい家族で、父も母も妹も居候も、みんないい人たちで、瑛人は満たされている。ということもきちんと理解したうえでそれでもなお、自分は孤独だと思っている。
それは血の繋がりという、どうしようも無い部分で自分だけ外れている。なんて所からくる感情なんだろうけど、そんな血が繋がっていないことで孤独を感じる瑛人が、アイスを家族に迎え入れようと奮闘する様はもちろん滑稽であるんだけど、とても胸を打つ。
若者特有の視野の狭さで、他の大切なことをたくさん見落としている。
そんな瑛人の成長譚。
あと、観路がかわいい物語。
どこかに消えて行ってしまいそうに見えた瑛人のために父と母と妹も不安があって、瑛人にとって実の兄である高野橋さんを、親戚として住まわせていた。
瑛人の視点から見ると、父も母も妹も高野橋さんもみんな、幸せそうで安定した家族に見えていたけど、実際にはみんなの中にも不穏な気持ちや不安定な気持ちはしっかりとあって、そのことに気付けない瑛人は確かに子供だった。
あと、観路はかわいい。
ラストシーンのこの台詞。
「綺麗でしょ」
「なに言ってんの。ちゃんと見てみな。じゃあ明日、暗くなってから連れて行ってあげる。もう一回ちゃんとその目で確かめてごらん」
素晴らしい。
スカイツリーから見た夜景を指してのアイスの台詞なんだけど、宝石箱のような、それぞれの家庭や人間が発している光、それらを理由などもなく、ちゃんと綺麗だと言える竹宮ゆゆこのまっすぐさは本当に素晴らしい。
なかなかここまでストレートに家族愛を語れる人はいないんじゃなかろうか。
あと、観路ほどかわいい妹はなかなかいないんじゃなかろうか。
「あしたはひとりにしてくれ」とは、瑛人の言葉なのか、それともアイスやもしかしたら高野橋さんの言葉なのか。
なんにせよ、つまり今はひとりじゃないからそんなことが言える。
かわいい観路もいるからね。