伊坂幸太郎「オーデュボンの祈り」

こないだ読んだ伊坂幸太郎のエッセイ集「仙台ぐらし」がとてもよかったので、デビュー作の「オーデュボンの祈り」を久々に。
引っ越しのタイミングで売っちゃったかな、と思ってたけどちゃんと残してた過去の自分を褒めてる。

確か文庫化されてすぐに買って読んだので2003年に読んでるはず。
あの当時、「こんなに面白い小説があるのか」と、とてつもない衝撃を受けて当分の間伊坂幸太郎は最も好きな作家のうちの1人だったし、作品も一生懸命追っていた。
「昔の方がよかった」とか思いつつ、だんだんと急いで追うのもやめてしまっていたんだけど、「昔の方がよかった」のではなくて「あの当時に新しすぎた」からだ。
伊坂幸太郎の文章力や構成力とかは当然と言っていいと思うんだけど、最近の方が高い。
あの当時、こんな魅力的な設定で魅力的なキャラクターで気障なセリフ回しでストレートなメッセージ性のある小説なんか(僕の知る範囲では)なかった。
その後、伊坂幸太郎自体に僕が慣れてしまったり、他にも魅力的な作家にたくさん出会ってしまったせいで「新しさ」という部分が目減りしてしまっただけだ。全部僕の問題だ。

ですが、デビュー作の「オーデュボンの祈り」の輝きはすごい。
当時を思い出しての感動ももちろんあるけど、全力で読者を殴りにきている感じは圧倒的。
本当に面白いし、しっかりと覚えていた箇所でも、今回も当時と同じように鳥肌が立つほどに感動した。

あらすじ

コンビニ強盗に失敗し逃走していた伊藤は、気付くと見知らぬ島にいた。江戸以来外界から遮断されている“荻島”には、妙な人間ばかりが住んでいた。嘘しか言わない画家、「島の法律として」殺人を許された男、人語を操り「未来が見える」カカシ。次の日カカシが殺される。無残にもバラバラにされ、頭を持ち去られて。未来を見通せるはずのカカシは、なぜ自分の死を阻止出来なかったのか?
引用:Amazon

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オーデュボンの祈り (新潮文庫)
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ネタバレありの感想

伊坂幸太郎はとにかくかっこいい。
勧善懲悪の物語がすきなんだろう。
でも、その中で「善とは何か」というところで文学性を発揮しているだけ。
伊坂幸太郎がすごいのは、「悪とは何か」については考える余地が無い、と感じさせるところ。
「オーデュボンの祈り」で言うと「城山」のみが「悪」であり、その他の怪しい人々には「悪」を感じさせる部分は全くと言っていいほど無い。だけど、城山以外の全員が「善」なのかというと、自信をもって肯定できる人物はいない。
主人公の「伊藤」や「日々野」、「田中」ですらそう。
宙ぶらりんな「いいやつ」に比べてはっきりとした「やなやつ」。そのせいで「城山」がかっこよく見えてしまう瞬間などあって、それが伊坂幸太郎の毒なんだろうな。

キャラクターに頼りきった1冊ではあるけど、キャラクターがとにかく素晴らしい。
「ウサギさん」というキャラクターを作り出したのが本当に見事。
メインの話しに直接絡むわけではなくて、事件のヒントというか、「優午」の象徴として存在していたり、そもそも「ウサギ」という名前が伊藤が萩島に招かれたこと自体の象徴だったりしている。

島に欠けているものが「音楽」というのはあまりに気障だし、なんだそれ、と思ってしまえる内容。それでも、こんなに感動しちゃうなんて。
静香の「誰かに必要とされたい」という気持ち、すごくわかる。
萩島に音楽を持ち込まないことにより、静香の存在を高めた世界の優しさ。そしてそれはきっと「誰かに必要とされたい」と作者自身が願ったことなんじゃないかな。
考えすぎかもしれないけど、作家は1冊書くのに考えすぎるほど考えすぎているはずなので、読者がいくら考えたってそれには及ばないか。

この小説、映画化されないな、と思ってたんだけど、島に欠けているものが原因ですよね。
映画としては最後の丘で静香がアルトサックスを吹く場面(それすらも小説内では描かれてはいないが)まで、BGMを使うわけにいかないもんね。
2時間BGM無しっての難しそうだし、BGM使ったら最後の一番の見せ場意味ないもんね。

当時と同じくらい楽しめた。
いつまでも最高だ。

2018年 年間ベスト

  1. 詠坂雄二「電氣人間の虞」
  2. 西加奈子「ふる」
  3. 鳥飼否宇「死と砂時計」
  4. 西加奈子「漁港の肉子ちゃん」
  5. 中村文則「遮光」
  6. 宮下奈都「羊と鋼の森」
  7. 筒井康隆「朝のガスパール」
  8. 北山猛邦「私たちが星座を盗んだ理由」
  9. 天祢涼「キョウカンカク 美しき夜に」
  10. 井上真偽「その可能性はすでに考えた」
  11. 井上真偽「探偵が早すぎる」
  12. 江國香織「流しのしたの骨」
  13. 瀬川コウ「謎好き乙女と奪われた青春」
  14. 竹本健治「涙香迷宮」
  15. 下村敦史「闇に香る嘘」
  16. 中村文則「何もかも憂鬱な夜に」
  17. 筒井康隆「ロートレック荘事件」
  18. 本谷有希子「グ、ア、ム」
  19. 野村美月「文学少女と繋がれた愚者」
  20. 豊島ミホ「初恋素描帖」
  21. 野村美月「文学少女と慟哭の巡礼者」
  22. 野村美月「晴追町には、ひまりさんがいる。はじまりの春は犬を連れた人妻と」
  23. 深水黎一郎「ミステリー・アリーナ」
  24. 連城三紀彦「戻り川心中」
  25. 野村美月「文学少女と月花を孕く水妖」
  26. 深水黎一郎「テンペスタ 最後の七日間」
  27. 北山猛邦「先生、大事なものが盗まれました」
  28. 伊坂幸太郎「仙台ぐらし」
  29. 辻村深月「盲目的な恋と友情」
  30. 竹宮ゆゆこ「おまえのすべてが燃え上がる」
  31. 法月綸太郎「ノックス・マシン」
  32. 辻村深月「鍵のない夢を見る」
  33. 野村美月「文学少女と死にたがりの道化」
  34. 江戸川乱歩「怪人二十面相」
  35. 青山七恵「魔法使いクラブ」
  36. 又吉直樹「火花」
  37. クレア・ノース「ハリー・オーガスト、15回目の人生」
  38. 野村美月「文学少女と穢名の天使」
  39. 伊坂幸太郎「オーデュボンの祈り」
  40. 辻村深月「ハケンアニメ!」
  41. 東野圭吾「仮面山荘殺人事件」
  42. 有栖川有栖「46番目の密室」
  43. 岸田るり子「出口のない部屋」
  44. 青崎有吾「体育館の殺人」
  45. 下村敦史「生還者」
  46. 野村美月「文学少女と飢え渇く幽霊」
  47. 村田沙耶香「コンビニ人間」
  48. 東野圭吾「鳥人計画」
  49. 木内一裕「デッドボール」
  50. 佐藤友哉「子供たち怒る怒る怒る」
  51. 山口雅也「PLAY プレイ」
  52. 森絵都「カラフル」
  53. 井上荒野「あなたの獣」
  54. 東野圭吾「どちらかが彼女を殺した」
  55. 岡嶋二人「そして扉が閉ざされた」
  56. 東野圭吾「ある閉ざされた雪の山荘で」
  57. 早見和馬「イノセント・デイズ」
  58. 辻村深月「水底フェスタ」
  59. 櫛木理宇「死刑にいたる病」
  60. メグ・ガーディナー「心理検死官ジョー・ベケット」
  61. 瀬尾まいこ「おしまいのデート」
  62. 竹宮ゆゆこ「あしたはひとりにしてくれ」
  63. 連城三紀彦「夜よ鼠たちのために」
  64. 伊坂幸太郎「火星に住むつもりかい?」
  65. 筒井康隆「虚人たち」
  66. 西澤保彦「殺す」
  67. 東野圭吾「放課後」
  68. 長江俊和「出版禁止」
  69. 東川篤哉「密室の鍵貸します」
  70. 倉知淳「星降り山荘の殺人」
  71. 東野圭吾「十字屋敷のピエロ」
  72. 西村京太郎「殺しの双曲線」
  73. 中町信「暗闇の殺意」
  74. 秋吉理香子「暗黒女子」
  75. ネレ・ノイハウス「深い疵」
  76. 折原一「覆面作家」
  77. 恩田陸「木漏れ日に泳ぐ魚」
  78. 豊島ミホ「陽の子雨の子」
  79. 法月綸太郎「雪密室」
  80. 芦沢央「悪いものが、来ませんように」
  81. 恒川光太郎「夜市」
  82. 河野裕「最良の嘘の最後のひと言」
  83. 円城塔「オブ・ザ・ベースボール」
  84. 乾くるみ「嫉妬事件」
  85. 山本甲士「ひなた弁当」
  86. 大石圭「人を殺す、という仕事」
  87. 瀬尾まいこ「温室デイズ」
  88. 瀬尾まいこ「僕らのごはんは明日で待ってる」
  89. 歌野晶午「女王様と私」
  90. 浜口倫太郎「22年目の告白-私が殺人犯です-」
  91. 井上夢人「あわせ鏡に飛び込んで」
  92. 首藤瓜於「刑事の墓場」
  93. 相沢沙呼「午前零時のサンドリヨン」
  94. 大島真寿美「ふじこさん」
  95. ハリイ・ケメルマン「九マイルは遠すぎる」
  96. 綾辻行人「どんどん橋、落ちた」
  97. L・M・モンゴメリ「赤毛のアン」
  98. 首藤瓜於「脳男」
  99. 西澤保彦「麦酒の家の冒険」
  100. 山崎洋子「三階の魔女」
  101. 青柳碧人「西川麻子は地理が好き。」
  102. カタリーナ・インゲルマン=スンドベリ「犯罪は老人のたしなみ」
  103. 湊かなえ「豆の上で眠る」
  104. 野中柊「小春日和」
  105. 新藤卓広「秘密結社にご注意を」
  106. 原宏一「床下仙人」
  107. 島田荘司「斜め屋敷の犯罪」
  108. ジェーン・スー「貴様いつまで女子でいるつもりだ問題」
  109. 折原一「耳すます部屋」
  110. 竹内雄紀「悠木まどかは神かもしれない」
  111. 長江俊和「掲載禁止」
  112. 七月隆文「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」
  113. 鯨統一郎「邪馬台国はどこですか?」
  114. 木下半太「鈴木ごっこ」
  115. 香月日輪「桜大の不思議の森」
  116. 高木敦史「演奏しない軽音部と4枚のCD」
  117. 遠藤武文「トリック・シアター」
  118. 松田道弘「トリックのある部屋―私のミステリ案内」
  119. 伊原柊人「隣人の死体は、何曜日に捨てればいいですか?」
  120. 川村元気「世界から猫が消えたなら」
  121. 村田治「名探偵は推理しない」