東野圭吾の本格ミステリ「十字屋敷のピエロ」。
初期の頃の作品になるのですが、凄いな東野圭吾。
こういう作品も書けるのか、本当に多才な作家だ。
名作。
本書「十字屋敷のピエロ」の一番の特徴は所々に挿入される事件の目撃者であるピエロの人形からの視点。
これが、他にない独特な雰囲気を演出していて見事。
神様の視点(三人称視点)では書けない、書きづらい箇所をフェアに書いてくれている。
それを担うのがピエロの人形というのもどこか物悲しくて可笑しい雰囲気出してて小説の世界観にもぴったりだ。
ぼくはピエロの人形だ。人形だから動けない。しゃべることもできない。殺人者は安心してぼくの前で凶行を繰り返す。もし、そのぼくが読者のあなたにだけ、目撃したことを語れるならば…しかもドンデン返しがあって真犯人がいる。前代未聞の仕掛けで推理読者に挑戦する気鋭の乱歩賞作家の新感覚ミステリー。
引用:楽天ブックス
あらすじには2種類ある。いいあらすじと悪いあらすじだ。
そしてこれはいいあらすじだ。それも、とてもいいあらすじだ。
ワクワクする。
ミステリーでは雰囲気作りというのもすごく大事な要素の一つ。
本書でも、本格ミステリっぽい雰囲気がすごく良い。
いわくつきの人形とそれを追ってきた人形師の悟浄。
車椅子の美少女に、オーストラリアから帰ってきた狂言回しの主人公。
十字の形をした屋敷。
と、ミステリっぽいアイテム盛りだくさんでワクワクしちゃう。
いかにも何か一筋縄ではいかない悲劇が起こりそう。
本書が多くの本格ミステリとちょっと違うのは、探偵になりそうな人がたくさん登場する。
最後の真相にたどり着く(本当の探偵)のは、悟浄とピエロの人形というド本命ではあるものの、序盤の探偵役は青江や警察が担っている。
この意外性もすごく楽しめた要因の一つ。
十字屋敷という形から鏡を使ったトリックなんだろうな、とは想像がついた。
でも、それがピエロを置いた理由になった、なんて点には全然気付けていなかった。
細かい部分まで緻密に練られた構成、すごい。
「あたしたちには、あたしたちなりのやり方があるんです。両足が自由に動く人たちよりも、ずっと巧いやり方が。」
佳織のこのセリフ、最後の真相につなげる前振りとしてすごくよく効いてる。
ただ、青江を失ってしまった佳織がかわいそうでしょうがない。
でもそれも、「犯罪は割に合わない」ってことなのかもしれない。
これ、悟浄とピエロのコンビでのシリーズモノにしようとしていたのではないかな?って終わり方。
でも、これこの探偵が出てくるのって1冊だけだよね?なんでだろう。
評判がそんなによくなかったのかしらん。
こんなに面白いのに。
不思議だ。
東野圭吾は本当に多作で、本当に多才。
振れ幅が大きすぎてこういう作家だ、というのが見えてこないけど、どれも基準以上のものだし出版物は手に入りやすいし、いい作家だ。
結構読んでるけどまだ読んでない作品もあるので、これからも楽しみだ。