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西加奈子「漁港の肉子ちゃん」

バンドメンバーのヤシロに借りて。
そもそも、「ふる」を読んだのもヤシロが「西加奈子が最高」と言っていたから。
ふるも最高だったけど、本書も最高。
よきよき。

「ふる」は命について書かれた傑作で、本書「漁港の肉子ちゃん」は、家族について書かれた傑作。

あらすじ

男にだまされた母・肉子ちゃんと一緒に、流れ着いた北の町。肉子ちゃんは漁港の焼肉屋で働いている。太っていて不細工で、明るい―キクりんは、そんなお母さんが最近少し恥ずかしい。ちゃんとした大人なんて一人もいない。それでもみんな生きている。港町に生きる肉子ちゃん母娘と人々の息づかいを活き活きと描き、そっと勇気をくれる傑作。
引用:Amazon

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感想

西加奈子の書く言葉は、文章は、そして物語はなんでこんなにすんなりと入ってくるんだろう。
方言まみれだし、舞台は現実でモデルの街もしっかりあるものの、現実と非現実が混じったような視点の持ち主が主人公。
おまけにメッセージ性も強い。
アクの強い作家であることは間違いないんだけど、読み辛いと思う瞬間は全くない。
相性がいいだけなのか、多くの人にとってもそうなのか。
そんな読みやすい本書だが、心のどこかに引っかかって、だんだんと染み込んでくる何かがある。そしてその何かはとても暖かなもので、それがとても心地良い。

太っていて不細工な肉子ちゃんと、その娘のキクりんの話。
親子とはなんぞや。
当たり前のことなんだけど、親である肉子ちゃんにも、娘であるキクりんにもそれぞれ独立した人格と肉体があって、それぞれがそれぞれのテリトリーで生活している。
そのテリトリーの一部が深く繋がっているというだけで、肉子ちゃんはキクりんに隠していることがあるし、キクりんも肉子ちゃんに言えないことがたくさんある。
そんな2人のやりとりはとてもコミカルで、笑いながらさくさく読んでいける。
もちろん、コミカルなだけではなくて、学校での友達付き合いの難しさで悩む様子に胸苦しくさせられたり、写真家に対する恋で胸苦しくさせられたり。

宮城県の女川町(おながわちょう)というところが舞台だそうで、近いうちに行ってみよう。
そんで焼肉食べよう。

ネタバレありの感想

キクりんにとって肉子ちゃんがお母さんと違う。というのは、割と驚くような展開ではない。
それでも、それにキクりんが気づいていて、周りの大人たちや子供たちに気を遣いながら生きてきたことはきっと、少し寂しいことだ。

キクりんは、大人に迷惑をかけたくなくて、腹痛を訴えられないような、きっと一般的には大人っぽいと言われるタイプの女の子だ。
そんなキクりんに対して、サッサンがかけた言葉が素敵だ。

「生きてる限りはな、迷惑かけるんがん、びびってちゃだめら。」

そしてこれを、お母さんである肉子ちゃんが言えないのが、肉子ちゃんが肉子ちゃんである所以だし、肉子ちゃんの周りに集まった人々の優しさ(それは肉子ちゃんの能力と言えるものだろう)もよく現れている。

そして、キクりんが肉子ちゃんにかける「大好き。」の言葉。
肉子ちゃんの不細工さで笑ってしまいながら、すごく泣けた。
最高のシーン。

そして、ラストシーン。
「お腹が痛い」と遠慮せずに肉子ちゃんに告げるキクりん。
入院という事件をえて、多少我儘になったキクりん。
そのお腹の痛みが初潮であるという、
多少我儘になったことで大人へと少し近づいたという書き方がとても見事。
サッサンも「生きてる限り、恥かくんら、怖がっちゃなんねえ。」と言っていた通り、大人こそ、みんなに迷惑をかけて生きているってことだ。恥をかきながら生きているってことだ。

2018年 年間ベスト

  1. 詠坂雄二「電氣人間の虞」
  2. 西加奈子「ふる」
  3. 鳥飼否宇「死と砂時計」
  4. 西加奈子「漁港の肉子ちゃん」
  5. 中村文則「遮光」
  6. 宮下奈都「羊と鋼の森」
  7. 筒井康隆「朝のガスパール」
  8. 北山猛邦「私たちが星座を盗んだ理由」
  9. 天祢涼「キョウカンカク 美しき夜に」
  10. 井上真偽「その可能性はすでに考えた」
  11. 井上真偽「探偵が早すぎる」
  12. 江國香織「流しのしたの骨」
  13. 瀬川コウ「謎好き乙女と奪われた青春」
  14. 竹本健治「涙香迷宮」
  15. 下村敦史「闇に香る嘘」
  16. 中村文則「何もかも憂鬱な夜に」
  17. 筒井康隆「ロートレック荘事件」
  18. 本谷有希子「グ、ア、ム」
  19. 野村美月「文学少女と繋がれた愚者」
  20. 豊島ミホ「初恋素描帖」
  21. 野村美月「文学少女と慟哭の巡礼者」
  22. 野村美月「晴追町には、ひまりさんがいる。はじまりの春は犬を連れた人妻と」
  23. 深水黎一郎「ミステリー・アリーナ」
  24. 村田沙耶香「コンビニ人間」
  25. 野村美月「文学少女と月花を孕く水妖」
  26. 深水黎一郎「テンペスタ 最後の七日間」
  27. 北山猛邦「先生、大事なものが盗まれました」
  28. 伊坂幸太郎「仙台ぐらし」
  29. 辻村深月「盲目的な恋と友情」
  30. 竹宮ゆゆこ「おまえのすべてが燃え上がる」
  31. 法月綸太郎「ノックス・マシン」
  32. 辻村深月「鍵のない夢を見る」
  33. 野村美月「文学少女と死にたがりの道化」
  34. 青山七恵「魔法使いクラブ」
  35. クレア・ノース「ハリー・オーガスト、15回目の人生」
  36. 野村美月「文学少女と穢名の天使」
  37. 伊坂幸太郎「オーデュボンの祈り」
  38. 辻村深月「ハケンアニメ!」
  39. 東野圭吾「仮面山荘殺人事件」
  40. 有栖川有栖「46番目の密室」
  41. 岸田るり子「出口のない部屋」
  42. 青崎有吾「体育館の殺人」
  43. 下村敦史「生還者」
  44. 野村美月「文学少女と飢え渇く幽霊」
  45. 早見和馬「イノセント・デイズ」
  46. 東野圭吾「鳥人計画」
  47. 木内一裕「デッドボール」
  48. 佐藤友哉「子供たち怒る怒る怒る」
  49. 山口雅也「PLAY プレイ」
  50. 森絵都「カラフル」
  51. 井上荒野「あなたの獣」
  52. 東野圭吾「どちらかが彼女を殺した」
  53. 岡嶋二人「そして扉が閉ざされた」
  54. 東野圭吾「ある閉ざされた雪の山荘で」
  55. 辻村深月「水底フェスタ」
  56. 櫛木理宇「死刑にいたる病」
  57. メグ・ガーディナー「心理検死官ジョー・ベケット」
  58. 瀬尾まいこ「おしまいのデート」
  59. 竹宮ゆゆこ「あしたはひとりにしてくれ」
  60. 連城三紀彦「夜よ鼠たちのために」
  61. 伊坂幸太郎「火星に住むつもりかい?」
  62. 筒井康隆「虚人たち」
  63. 西澤保彦「殺す」
  64. 東野圭吾「放課後」
  65. 長江俊和「出版禁止」
  66. 東川篤哉「密室の鍵貸します」
  67. 倉知淳「星降り山荘の殺人」
  68. 東野圭吾「十字屋敷のピエロ」
  69. 西村京太郎「殺しの双曲線」
  70. 中町信「暗闇の殺意」
  71. 秋吉理香子「暗黒女子」
  72. ネレ・ノイハウス「深い疵」
  73. 折原一「覆面作家」
  74. 恩田陸「木漏れ日に泳ぐ魚」
  75. 豊島ミホ「陽の子雨の子」
  76. 法月綸太郎「雪密室」
  77. 芦沢央「悪いものが、来ませんように」
  78. 恒川光太郎「夜市」
  79. 河野裕「最良の嘘の最後のひと言」
  80. 円城塔「オブ・ザ・ベースボール」
  81. 山本甲士「ひなた弁当」
  82. 大石圭「人を殺す、という仕事」
  83. 瀬尾まいこ「温室デイズ」
  84. 瀬尾まいこ「僕らのごはんは明日で待ってる」
  85. 歌野晶午「女王様と私」
  86. 浜口倫太郎「22年目の告白-私が殺人犯です-」
  87. 井上夢人「あわせ鏡に飛び込んで」
  88. 首藤瓜於「刑事の墓場」
  89. 相沢沙呼「午前零時のサンドリヨン」
  90. 大島真寿美「ふじこさん」
  91. ハリイ・ケメルマン「九マイルは遠すぎる」
  92. 綾辻行人「どんどん橋、落ちた」
  93. L・M・モンゴメリ「赤毛のアン」
  94. 首藤瓜於「脳男」
  95. 西澤保彦「麦酒の家の冒険」
  96. 青柳碧人「西川麻子は地理が好き。」
  97. カタリーナ・インゲルマン=スンドベリ「犯罪は老人のたしなみ」
  98. 湊かなえ「豆の上で眠る」
  99. 野中柊「小春日和」
  100. 新藤卓広「秘密結社にご注意を」
  101. 原宏一「床下仙人」
  102. 島田荘司「斜め屋敷の犯罪」
  103. 田中慎弥「田中慎弥の掌劇場」
  104. 折原一「耳すます部屋」
  105. 竹内雄紀「悠木まどかは神かもしれない」
  106. 七月隆文「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」
  107. 鯨統一郎「邪馬台国はどこですか?」
  108. 木下半太「鈴木ごっこ」
  109. 香月日輪「桜大の不思議の森」
  110. 高木敦史「演奏しない軽音部と4枚のCD」
  111. 遠藤武文「トリック・シアター」
  112. 松田道弘「トリックのある部屋―私のミステリ案内」
  113. 伊原柊人「隣人の死体は、何曜日に捨てればいいですか?」
  114. 川村元気「世界から猫が消えたなら」
  115. 村田治「名探偵は推理しない」
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Book | 2018年9月15日